チョーヤが「前代未聞の梅不作」でも平気だった理由とは? 40年の信頼と「一見非合理」な非専属契約の繋がりがつくる”強さ”
■豊作では買い支え、不作では必要最低限を チョーヤ梅酒の努力はそれだけにとどまらない。さらに踏み込んで、農家の経営を支えている。例えば、農家が豊作の年には想定量を超えていても、一定量を引き取る。反対に不作の年には、農家に負担の少ない必要最低限の量を買い取る。買い取り価格も、豊作の年は一般市場より高くし、その代わりに、不作の年には一般市場よりも低めの価格で出荷してもらえることもある。市場の需給バランスの影響を受けやすい価格変動で、お互いの経営が傾かないようにサポートしているのだ。
もちろん、豊作のため大量に引き取った梅も無駄にはせず、ホワイトリカーやブランデーに漬けてストックしている。元々チョーヤの梅酒は、最低でもおよそ1年間は熟成が必要なため、翌年の販売を考えると2年分は在庫を持たなければならない。そのため在庫=リスクにはならないのだ。ちゃっかりというか、ストックを使って熟成商品の展開もしている。さらにノンアルコール梅酒用に、梅をフローズン状態でもストックしているという。
とはいえ、今年のように不作の影響がまったくない訳ではない。影響が出るのは熟成期間を経た2~3年後。このタイミングに商品供給が減らないように、過去に漬けた梅酒とブレンドし、「味と量の変化がなるべく少ないように」調整しているそうだ。このブレンドの割合が非常に難しいそうで、製造現場では、侃々諤々の議論が交わされることもある。 一連の話を聞いた後、担当編集が「なるほど、一見、非合理なのがポイントなのですね」とつぶやくと、金銅専務は「その通りです」と微笑んだ。
経営学者の楠木建氏は、著書『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)の中で、「誰もが納得するような合理的な戦略は、すぐに競合他社に真似されてしまい、競争優位ではなくなってしまうが、一見して非合理な打ち手は、真似されない。それゆえ、長期利益につながる」と指摘している。 チョーヤの場合は、大企業のように「農家を囲い込む」ことをせず、南河内・紀州の緩やかなつながりの中で共存する道を選んだことが、結果的に梅の安定調達につながっているということなのだろう。たしかにこのやり方なら、年によっては割高に仕入れることはあっても、肝心の調達が途切れることはなく、不作の年であっても、質の高い梅を仕入れられる。