チョーヤが「前代未聞の梅不作」でも平気だった理由とは? 40年の信頼と「一見非合理」な非専属契約の繋がりがつくる”強さ”
さらにもう1点、梅の仕入れには課題がある。仕入れ期間が短いのだ。そもそも、梅干し用と梅酒用の梅には大きな違いがある。梅干し用の梅は、塩漬け、天日干しの「1次加工」を主に農家が行い、それを梅干し業者が買い取って、減塩、味付けの「2次加工」を行って完成する。このため梅干し業者は、農家が在庫として持つ1次加工された梅を、一年中いつでも購入できる。 一方梅酒は、一からメーカーで加工するため、生で仕入れなければならない。だからチョーヤの仕入れ時期は、梅が熟す6月の約1カ月間のみ。ここに、一年間すべての梅の仕入れが集中せざるを得ないのだ。
■農家と「緩やかにつながり」質と量を確保する 流通量が少なく、短期集中となる梅酒用の梅の仕入れ。この難題を克服するためにチョーヤは、半世紀かけて産地の農協、農家と関係を紡いできた。 筆者は、最近コーヒーの世界でよく聞く、農家との専属契約があるのでは……と考えていたのだが、違った。毎年、農協を通じて農家と話し合い、自社が必要な量を確保してもらっているという。 梅酒市場で無二の存在感を誇る同社であれば、専属契約を結ぶ農家は少なくないだろうし、そのほうがチョーヤとしても安心のはず……一見非合理にも思えるが、なぜ専属契約にしないのか?
チョーヤ・専務の金銅俊二氏は、「農作物には豊凶や価格変動がつきものです。それなのに専属契約をして定価、定量で契約するのは、農家にとって得と言えるでしょうか? それよりも信頼で緩やかにつながって、豊凶に合わせて市場価格を鑑み、都度交渉するほうがお互いにウィンウィンで長続きする関係になるのではないかと考えています」と説明する。 しかもこの形態なら、農家は安定した買い取りを背景に、長期的な視点で品質向上に取り組むことができる。一方、チョーヤは高品質な原料を継続的に確保でき、製品の品質維持につながる。
加えて、刻々と変わっていく農家の状況に合わせることもできるという。昨今、高齢化で生産量を減らしている農家もあれば、若手が参入して、加工と販売までの一貫体制に挑戦しはじめている農家もあるからだ。契約で縛らないからこそ、それらの農家とも持ちつ持たれつ、お互いが苦しまない関係でいられるのだ。 この関係性を最も象徴するのが価格交渉で、取材時は8月初旬だったが、6月に購入した梅の仕入れ価格はまだ交渉中とのことだった。一般的な青果物は売買後10日以内に支払うものだそうだが、農家が市場価格などを調整して、チョーヤ向けの金額を協議して決めている最中だという。かなり時間を要する話だ。だが、「農家さんに助けていただいてこそ成長を続けられるビジネスです。そこは待ちます」と金銅専務はこともなげに言う。