緒形直人 父・緒形拳の十七回忌は仕事で東京拘置所に「オヤジは喜んでいるんじゃないかなって…」
■父の十七回忌の日、東京拘置所で…
今年放送されたドラマ「アンチヒーロー」(TBS系)では、12年前に起きた一家惨殺事件の犯人として逮捕された無実の死刑囚・志水裕策役を演じ、別人のような姿が話題に。 「当初、監督やプロデューサーとの話で、『ロクヨン~』の時の感じで演じてほしいと言われ、体型も髪も今のままでという事でした。でも、『ロクヨン~』の時は、頭のおかしい人間が、ふてぶてしく生活している様を恰幅よくする事で被害者との対比を出すプランで作っていったんです。 『アンチヒーロー』の志水役のルックスは、只々長い間、己と向き合ってきた人間の、あまりにも惨い痛々しさを表現するには、と考えて出したものです。まぁ、その事より感情の持って行き方がよっぽど大変な事なんですけどね(笑)」 無実が明らかになって釈放された時、逮捕時に着ていた洋服はブカブカ。容疑を否認しつつも裁判で死刑判決を受けた苦悩、やりきれなさ、拘束されていた12年間という歳月をリアルに感じさせた。緒形さんは体重をかなり落として志水役を演じたという。 ――10月5日には、東京拘置所で1日所長もされていましたね 「『アンチヒーロー』で12年間無実の罪で拘留されていた役を演じたので。今年1月には、(中山)晋平が生まれた長野で1日警察署長をやってきたんですよ。その時に『この後何をやるんですか?』って聞かれたんだけど『死刑囚です』って言えないから、『ちょっと連ドラに』って(笑)」 ――東京拘置所の1日所長をされた10月5日は、お父さまの十七回忌だったのですね 「はい。ちょうど十七回忌法要の時に僕は東京拘置所だったので、それはそれでオヤジは喜んでいるんじゃないかなって。僕が仕事で(法要に)参加できなくても他の家族はみんな参加していましたからね」 ――それにしても十七回忌に拘置所というのもすごいですよね 「そうですよね(笑)。でも、父は父で役に生きていた人で、今回僕も役の繋がりで拘置所のお話をいただいたので、感謝の気持ちで務めさせていただきました。それは良かったなって思いました」 現在放送中の連続テレビ小説「おむすび」(NHK)では、阪神・淡路大震災で一人娘・真紀を亡くした靴店店主・渡辺孝雄役を演じている。 「僕は以前、阪神・淡路大震災を風化させないために日本防火協会が作った映画に出て、実際に阪神・淡路大震災と全く同じ揺れをスタジオのセットで撮影したんだけど、立っていられない程のとんでもない揺れでした。恐怖でしかなかった。あんな揺れが関東で来たらどうなるんだろうっていう揺れでした。 来年が阪神・淡路大震災から30年なんです。今年だって元旦から能登で大地震があったわけで、日本は地震大国だから、いつどこであるかわからないじゃないですか。 これは風化させてはいけないんですよ。30年経っても、今も苦しんでいる人たちがいるわけですからね。時が止まったままの人もいらっしゃると思います。やっぱり、1歩踏み出してもらいたいから、明日に繋がるドラマになればと思ってやっています」 ――今後はどのように考えていらっしゃいますか 「今後も変わらず、いろんな役をやっていきたいなって思っています。一つ一つがやっぱり挑戦なので。今まで同じ役は、あまり多くは演じて来なかった。だからPART2はこの先頼まれても多分断ると思うんですけど、もしかしたらやるかもしれないかな(笑)。新しいことに挑戦していきたいですね」 私生活では、1993年に俳優・仙道敦子さんと結婚。長男の緒形敦さんは俳優、次男の緒形龍さんもモデル・俳優として活動している。 「やりたいのであればやればいいと思っているので応援はしています。でも、子どもが俳優になった俳優仲間はみんな『やっぱり(俳優に)なっちゃったね』って言っていますよ(笑)」 誠実さがにじみ出る落ち着いた雰囲気、ソフトな語り口が心地良い。いつか父子共演作も見てみたい。(津島令子) ヘアメイク:井村曜子(eclat) スタイリスト:大石裕介
テレビ朝日