緒形直人 父・緒形拳の十七回忌は仕事で東京拘置所に「オヤジは喜んでいるんじゃないかなって…」
■最新出演映画で自身も所属する新劇のルーツを知ることに
(C)「シンペイ」製作委員会2024 本日(22日)から長野で先行公開され、2025年1月10日(金)に全国公開される映画「シンペイ~歌こそすべて」に出演。これは、「シャボン玉」「ゴンドラの唄」「東京音頭」「カチューシャの唄」など、今も歌い継がれ、童謡、歌謡曲、音頭、民謡まで幅広いジャンルの約2000曲を残した作曲家・中山晋平の知られざる生涯を彼の音楽とともに描いたもの。緒形さんは、中山晋平の才能を見出す島村抱月役を演じている。 「僕は、新劇の劇団青年座出身なんですけど、裏方志望だったので新劇って一切知らないんです。『何で新劇の劇団に入ったの?』ってよく聞かれるんだけど、『いや、僕は裏方を目指すために自由劇場とここを受けようと思っただけで、よくわからなかったんだよね』って。 『新劇ってそもそも何?』という感じで全く知らない。新劇運動(明治末期に近代的な演劇を確立するために、坪内逍遥、島村抱月、小山内薫らが起こした運動)も知らなければ、島村抱月も初めて聞いた名前なので、最初にいろんな資料を取り寄せたり、ネットで調べ始めました。 『新劇運動とは、こういうことだったんだ。この歌はここから来たのか』というところからスタートしたんです。それで、島村抱月という人は、ヨーロッパに3年も留学して、オペラやミュージカルのお芝居を180本以上見て勉強して、そういったものを日本でやりたくて帰って来た人なんだ。ある意味もう高みを見た人なんだって。 だから、ある種自信満々で、坪内逍遥と文芸協会を設立して舞台を作る。自分の中ではきちっとした道筋が立っている人なんですよね。それで、自分の書生をしている(中山)晋平の鼻歌を聴いた時にピンとくるわけですよ。 そういった時代の勢いがあり、新劇ブームを作っていく新劇運動をこしらえていった人だから、目指しているものが他の人と一緒ではない。力強さ、カリスマ性…。次元の違う人物なんですよね。 だから、身振り手振りもちょっと西洋風にして、勢いを感じさせる人物にしたいと思いました。そして、超仕事人間。仕事のことしか考えず、そこで恋もして…一気に駆け抜けた男を演じたかった」 (C)「シンペイ」製作委員会2024 ――あれだけ才能も実力もあるのに須磨子に振り回され、付き人のようなことまで嬉々としてすることに。ある意味ものすごく人間っぽいですね 「そうですね。妻子がありながら看板女優の松井須磨子との恋愛醜聞で文芸協会を辞めることになって。本当は、抱月と須磨子二人のシーンはもう少し撮影はしたんですが、カットになってしまって。面白いシーンもいくつかあるんですけど、そこがあったらどうだったのかなって思ったりもしました。 でも、晋平の話だから、なくて正解だったのかもしれないですね。こういう人たちがあの時代を作って、今でもその歌が歌われ続けていて、懐かしく感じたり、やっぱりいいなあって思ったりする。 その人たちの勢いというのを見てほしいし、お芝居が好きな人だったら、あそこから枝葉が出て、ミュージカルができたり、いろいろ広がっていったんだと感じてほしいです。舞台上でハイヒールを履いてカチューシャをして歌っている、ああいう西洋のものを見て、やっぱり特に女性はときめいたんじゃないかなって思う。あれはあれでとても華やいでいい時代だったと思いますね。 そのあと、抱月は、同じく文芸協会を抜けた澤田正二郎、須磨子と劇団・芸術座を結成する。 それで、澤田正二郎が芸術座を退団後に、うちのオヤジが出身だった新国劇が生まれて。 あの時は、新国劇は『右に芸術左に大衆』なんてものすごく盛り上がって。 島田正吾先生から何年か前に、『アッツ島の玉砕』の時も、満員のお客さんがみんな立って、北に向かって黙祷を捧げたっていうお話を聞きました。そういう話を聞くと、熱い時代だったなって思いますね。 その時の雰囲気を知らなくても何となくあの劇場の雰囲気から伝わるんじゃないかなって。自分の先祖が生きてきた、あの当時の日本を感じてもらえたらいいなって思いますね」 ――とてもわかりやすく作られていますよね。よく知っている曲もいっぱい出てきますし 「そうですね。すごくわかりやすく描かれていると思います。映画館で音楽と物語が一体となって真っ暗な中でスクリーンに投影されたあの時代を見てもらった時に、何か違った感覚があるんじゃないかなって。 神山監督の作品というのは特にそうなんだけど、やっぱり劇場のスクリーンで見るべき作りなんですよね。だから是非、スクリーンで見てほしいです」