緒形直人 父・緒形拳の十七回忌は仕事で東京拘置所に「オヤジは喜んでいるんじゃないかなって…」
1988年、映画「優駿 ORACION」(杉田成道監督)で主演デビューして37年、映画「64―ロクヨンー前編・後編」(瀬々敬久監督)、「アンチヒーロー」(TBS系)など多くの映画、ドラマに出演している緒形直人さん。ソフトな語り口で「世界遺産」(TBS系)などナレーションにも定評がある。本日から長野で先行公開され、2025年1月10日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開される最新作映画「シンペイ~歌こそすべて」(神山征二郎監督)では島村抱月役を演じている。(※この記事は全3回の後編。前編・中編は記事下のリンクからご覧いただけます) 【動画】俳優・緒形直人さん 東京拘置所の1日所長に 刑事施設の取り組みアピール
■誘拐殺人犯人役がなかなか抜けず…
25歳で大河ドラマ「信長 KING OF ZIPANGU」に主演を果たし、実力派俳優として広く知られることになった緒形さん。映画「わが心の銀河鉄道 宮沢賢治物語」(大森一樹監督)、映画「サクラサク」(田中光敏監督)など主演作品も多い。 映画「サクラサク」は、父親(藤竜也)が認知症を発症し、それまで家族を顧みず仕事に没頭してきた息子と家族の再生を描いたもの。緒形さんは家族の絆を取り戻そうと奮闘する主人公・大崎俊介役を演じた。 「家族の物語で自分に重なる部分もありました。俊介は、仕事の面では優秀で部下にも慕われているんだけど、家庭のことはほとんど振り返って来なかったという男。そうやって色々自分と重ねながら、やったと思います。僕は、それぞれの役を一つ一つ真摯に向き合ってやりたいんです。だから、作品が重なるのはイヤですね」 ――大河ドラマ「翔ぶが如く」(NHK)の時に、『予備校ブギ』(TBS系)と『東京湾ブルース』(テレビ朝日系)という二つの主演ドラマの撮影が重なっていたのは大変だったでしょうね 「あの時は初めて社長に、『こういう仕事のさせ方をするならここを辞めたい。僕はもうここを離れます』って言いに行ったんですよ。そうしたら『わかった。お前にはお前のやり方があって、そうやって頭がグチャグチャになってしまう人なわけだから、なるだけ重ならないようにするから』ということで、そのまま居続けたんですけど、それぐらい自分の中でも、もうどうしていいのかわからなかった時期でしたね」 「サクラサク」が公開された2014年には、映画「64―ロクヨンー前編・後編」(瀬々敬久監督)に出演。これは、わずか1週間の昭和64年に発生した少女誘拐殺人事件・通称“ロクヨン”。未解決のまま14年の時が流れ、時効が目前に迫っていた平成14年、ロクヨンを模倣したような誘拐事件が発生する…という展開。緒形さんはロクヨンの犯人・目崎正人役を演じた。 ――それまでとは全く違うイメージの役どころで、鬼気迫る演技が印象的でした 「僕は何でもやりたかったんだけど、そういう役があまり来なかったんですよね。その前に『深紅』(月野木隆監督)という映画でも殺人犯の役だったんですけど、『ロクヨン~』に関しては、(佐藤)浩市さんや監督からもやってほしいと声をかけてもらえたので、『やりますよ』って言ったんです。 でも、あそこまでひどい犯人の役というのはやったことがなかったから、それはそれで大変でした。役というのは、やっぱりその人の性格だったり、その人を知らないとできないんですよね。 僕が演じた目崎は、子どもを誘拐して殺して『何でお前、殺したんだ?』って浩市さんに詰め寄られた時に『わからない』って言うんですよね。実際にそういうやつはやっぱりいるわけですよ。まともな感覚とは別の人が間違いなくいる。 その人たちは殺人を犯しても自分でもなぜやってしまったのかもわからない。でも、僕は初めてそういうまともじゃない役に挑戦するというので、その本人を知りたいと思って。 原作から読み直してイチから築き上げていくわけですけど、やっぱりそういう人のことはわかっちゃいけないんですよね。子どもを誘拐して殺して身代金を奪うなんてまともじゃないんです。 でも、わかろうとしてしまったがゆえに、ちょっと精神的に入り込んじゃったんですよ。その人(犯人)の良い部分を探しちゃったっていうのかな。その人はなぜやってしまったのか、自分なりに答えを見つけようとしすぎちゃって、撮影が終わった後も役が離れなくなったんですよ。それが自分でも怖くなりました。 やっぱり普通じゃないんですよ、人を殺すというのは。神経がぶっ飛んでいる。他人には理解できないところの人なんだなっていうのがわかったというか。あの役が抜けていかなくなった時には、自分でも本当に怖かった。精神的にはかなりきつかったですね」