アートで世界の「声」を届ける|今月のアートな数字
企画展、芸術祭、フェア、コレクションなど多彩な話題が飛び交うアートの世界。この新連載では、毎月「数字」を切り口におすすめの話題をお届けしていく。初回の数字は「2025」。一層の国際化を目指す芸術祭について取り上げる。 2025年は、大阪・関西万博の年だ。時を同じくして、20年前の万博開催地である愛知では、国際芸術祭「あいち2025」が開催される。2010年から3年ごとに開催されている「あいち」は、今年で6回目。2019年の展示のひとつ「表現の不自由展・その後」の騒動が目立ったが、毎回、国内外から約100組のアーティストが参加し、約60万人の来場者を迎えながら発展してきた。 歴代、日本人が芸術監督を務めてきたなか、今回初めて海外から選任。アラブ首長国連邦(UAE)シャルジャ出身のフール・アル・カシミがその役を担う。背景には、外からの新しい視点で「あいち」の国際的なプレゼンスを高めたいという狙いがある。 1993年から開催される中東最大の芸術祭「シャルジャ・ビエンナーレ」に影響され、大学でアートを学んだカシミは、2003年から同ビエンナーレにかかわり、2009年にはシャルジャ美術財団を設立。世界有数の美術館のボードメンバーも務めながら、中東と世界のアートをつなぐ支援者として活躍している。 注がれる期待に対して「無数のアイデアがある」と微笑む彼女が大切にしているのが、複数の視点で芸術祭を構成することだ。「子どもなら何に興味をもつ? アーティストが求めるものは? キュレーターなら何をしたい? そのうえで音楽、舞台芸術、ラーニングなど多様なプログラムを展開し、誰もが何かを得られる形を実現します」。
終わりは新しい始まりでもある
カシミ自身と日本とのかかわりは深い。20年ほど前に日本語の勉強に没頭して以来、年2、3回のペースで来日しており「前回が55回目だった」という。「電車で各地へ行き、さまざまな展覧会やデザイン展、演劇などを観て回りました」。 2013年のシャルジャ・ビエンナーレでは長谷川祐子(現・金沢21世紀美術館館長)をキュレーターとして招き、日本のアーティストとも交流をもってきた。「あいち2025」においては、「招聘できる人に限らずできるだけ多くのアーティストと出会い、私自身の学びの機会とし、今後かかわる他国のプロジェクトにもつなげていきたい」と意気込む。 テーマに掲げる「灰と薔薇のあいまに」は、シリアの詩人アドニスの詩の一説で、カシミが長きにわたってインスピレーション源としている言葉だ。繁栄を象徴する薔薇と消滅を象徴する灰は両極にあり、二項対立で見られがちだが、カシミは「その間を掘り下げることが重要」と考えている。 「例えば、人間と自然との間には、もっとつながりや調和がありました。破壊の先の終末論が唱えられますが、終わりは新しい始まりでもある。そこからまた薔薇が生まれるのではないでしょうか」 その循環のためには、世界のさまざまな事象に気づく必要がある。 「世の中のことは大まかには伝えられているけれど、細かくは知らないことだらけ。あいち2025では、各地のアーティストがアートを通して届ける“声”に触れ、さまざまな体験をしてほしい」
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