クリエイティヴィティで韓国に大敗している日本に「絶対的に足りないもの」とは?
「日本はクリエイティヴィティの競争力が落ちている」 そう語るのは、インプットの最強技法と意識改革をまとめ、大手書店でベストセラーランキング上位にランクインしている書籍『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』の著者・菅付雅信氏。 菅付氏は坂本龍一や篠山紀信などの天才たちと数々の仕事をこなし、下北沢B&Bでの<編集スパルタ塾>、渋谷パルコの<東京芸術中学>、博報堂の<スパルタ塾・オブ・クリエイティビティ>や東北芸術工科大学でクリエイティヴについて教えている。 本連載ではその菅付氏に、クリエイティヴの本質についてさまざまな角度から語っていただく。第10回は今の日本に危機感を抱く菅付氏が考える、日本がクリエイティヴィティで世界と戦うために必要なことについて。(聞き手、文/ミアキス・梶塚美帆、構成/ダイヤモンド社書籍編集局) ● クリエイティヴィティの競争力が低落した日本 日本には地下資源が少なく、高度成長の頃から「日本の資源は人材だ」と言われてきました。 ここで使われている「人材」という言葉を今の文脈で精度高く表現すれば、「アイデアやクリエイティヴィティを生み出す人材」ということになるでしょう。そして現代の世界では、軍事力や地下資源もさることながら、アタマの競争における優位性が重要視されます。 それなのに日本は、アイデアやクリエイティヴィティで世界と戦うのだという国民的合意がないように思われます。僕はそこに強い危機感を抱いています。 かつて日本は、アメリカやヨーロッパを主な競争相手としていました。しかし現在はアジア各国も強力なライバルとなり、いくつもの領域で日本を凌駕しています。特にお隣の韓国には、音楽産業と映画産業で大きな差をつけられているのは歴然たる事実です。 これはつまり、クリエイティヴィティでの競争力が落ちているということです。このことを深く自覚できている人が、今の日本にどれほどいるのか疑問です。 ● 日本に「質の高い悔しさ」を植え付けたい クリエイティヴの競争力をつけるためには何をしたらよいのでしょうか。 僕は、小手先のアウトプット術を学ぶのではなく、長く使える普遍的なインプット術を学ぶべきだと考えます。そういった思いを込めて『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』を執筆しました。 この連載の第3回目でもお伝えしましたが、僕は大学でスパルタな授業をやっています。社会人向けにも「編集スパルタ塾」と「スパルタ塾・オブ・クリエイティビティ」を開校しています。 「スパルタ」と言うと時代錯誤に思われるかもしれません。でも、プロのアスリートになるには厳しい身体のトレーニングが必要なように、プロのクリエイターとしてサヴァイヴするには厳しいアタマのトレーニングが必要だと考えます。 クリエイティヴな仕事を続けることは、永遠に競争している状態であるということです。そこでモチベーションを維持して勝ち続けるためには、「あいつには負けたくない」「世界の第一線のプレイヤーたちと互角に戦いたい」「時代に残るようなものを生み出さずには死ねない」といったような、「質の高い悔しさ」を持ち続けなければならないのです。 日本が世界の知的競争から降りつつあり、世界に負けている事実から目を逸らそうとしている今だからこそ、国や状況のせいにせず、個々において「質の高い悔しさ」が必要なのです。 世界に対してヘイトや憎悪で敵対するのではなく、アイデアやクリエイティヴィティで健全な戦いができるようになるべきです。クリエイティヴの世界には暴力的な敵はいません。知的なライバルがいるだけです。 日本をクリエイティヴィティで戦える状態にする──僕はその一助を担うべく教育を行なっていますし、それこそが僕の責務だと思っています。そして実際に、僕の講座や大学の生徒たちの多くは、高い目標を持ち、グローバルな競争で負けないような研鑽を重ねていると信じています。 ● 質の高い努力の先には「ヘイト」ではなく「リスペクト」がある 世の中で「やさしい教育」が主流となり、スパルタという言葉が死語になりつつあっても、世界と知力で戦うためには、クリエイティヴなスパルタ教育が絶対に必要です。 アタマの競争には、暴力的な敵はおらず知的なライバルがいるだけだと前述しましたが、そうしたライバルとの質の高い切磋琢磨によって、日本のクリエイターたちは世界のクリエイティヴの「名球界」入りができるはずです。 そこにあるのは嫉妬や憎悪ではなく、互いのリスペクトと評価です。自分を人一倍鍛えている人は、同様に自らを鍛えている他者へのリスペクトと共感を持てるのです。 自分を愛し、自分に可能性があると思って、自分を鍛えるか? 自分を愛さず、可能性もないと思って自分を鍛えないか? どちらを選ぶかはあなた次第。そして自分のアタマを鍛えようと決意したならば、お互いに高め合えるライバルがいる世界で勝負してほしい。 そして高いレベルで勝負を続けるうち、あなたは自覚するはずです。 「実はこの世界には生まれつきの天才はいない。天才になる習慣があるだけなんだ」ということを。 (本記事は『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』の著者・菅付雅信への特別インタビューをまとめたものです) 菅付雅信(すがつけ・まさのぶ) 編集者/株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役 1964年宮崎県生まれ。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、現在は編集から内外クライアントのコンサルティングを手がける。写真集では篠山紀信、森山大道、上田義彦、マーク・ボスウィック、エレナ・ヤムチュック等を編集。坂本龍一のレーベル「コモンズ」のウェブや彼のコンサート・パンフの編集も。アートブック出版社ユナイテッドヴァガボンズの代表も務め、編集・出版した片山真理写真集『GIFT』は木村伊兵衛写真賞を受賞。著書に『はじめての編集』『物欲なき世界』等。教育関連では多摩美術大学の非常勤講師を4年務め、2022年より東北芸術工科大学教授。1年生600人の必修「総合芸術概論」等の講義を持つ。下北沢B&Bにてプロ向けゼミ<編集スパルタ塾>、渋谷パルコにて中学生向けのアートスクール<東京芸術中学>を主宰。2024年4月から博報堂の教育機関「UNIVERSITY of CREATIVITY」と<スパルタ塾・オブ・クリエイティビティ>を共同主宰。NYADC賞銀賞、D&AD賞受賞。
菅付雅信