■「寂しくなります」が相手に寄り添える一言 　もう一つは、相手がどう思っているかはさておき自分の思いや感想を伝える方法があります。 　「○○支店に異動になりまして」 「寂しくなります」 　これは《異動したらこれまで通りのお付き合いができなくなってしまうかもしれない》という自分の心の内を伝えているだけです。「自分のことを慕ってくれていたんだ」と思えば嬉しいものですし、不本意な異動に気落ちしていれば「寄り添ってくれている」と感じてくれるかもしれません。 　前向きな思いを伝えたいのであれば、「新天地でのご活躍が楽しみです」といった表現もいいでしょう。あくまでも《自分が楽しみにしている》という範囲で、祝意を伝える一言です。今までよりも明らかに小さな会社に出向したり、転職された場合にも使えます。 　無難な挨拶ではつまらない、相手の感情に引っかかる気の利いたことを言いたい、寄り添った言葉をかけてあげたいといった欲や善意が墓穴を掘ってしまうのですが、リスクを承知で踏み込まなければ誰の心にも響かないのもまた事実。本当に親しみを感じている相手には、空振りを恐れるべきではないとも思います。 　ここまでは祝意や褒め言葉を“伝える側”のマナーでしたが“伝えられる側”にもたしなみはあってしかるべきだと思います。先の「嫌味ですか？」と返してきた人に対し、私は「ああ、組織の序列に縛られた、気の毒な人だ」という印象を受けてしまいました。 　ポジティブな言葉をかけられたら、大ざっぱな善意だけを汲み取って「ありがとうございます」と返しておけばいいのです。こちらがいちいち内容の正解/不正解を指摘し始めたら、相手に気まずい思いをさせてしまいます。 　※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年10月4日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 石原 壮一郎（いしはら・そういちろう） 大人系＆検定系コラムニスト 1963年三重県生まれ。1993年に『大人養成講座』でデビューして以来、大人の素晴らしさと奥深さを世に訴え続けている。『大人力検定』『父親力検定』『大人の言葉の選び方』など著書多数。最新刊は、会社の理不尽と戦うための知恵と勇気を授ける『9割の会社はバカ』（飛鳥新社、共著）。郷土の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」を務める。 ----------