経済産業省・物流企画室長の中野剛志氏に聞く CLO誕生で進むサプライチェーンの「手の内化」とは?
森:そうすると、CLOが生まれることによって、企業の戦略はもちろん変わるわけですが、産業界にはどんな影響が出るでしょうか。 中野:産業界への影響でいうと、産業構造の変化という意味で、大きな変化が起きると思っています。起きなければ競争力で負けるだけの話なんですが。 それは、これまでは「選択と集中」で、「コアなところ以外はアウトソースして、必要なものは技術であれ、物流の能力であれ、外から提供してもらえばいい」といったイメージでいたものが、これから「どこでサプライチェーンが寸断するかわからない」という時代になると、当然不安だから、「手の内化しよう」となるのではないでしょうか。 一番極端なのは内製化ですが、内製化がきつければ連携を強める、系列化する。系列化もきつければ、企業間連携を何らかの形でもっと強めていく方向に進むでしょう。おそらく、サプライチェーンの上流から下流という、いわゆる垂直統合、垂直連携、垂直の囲い込みがはじまってくるでしょう。 もしくは、それを進めた会社が勝ち残る。この垂直の統合、垂直の囲い込みは、連携のコストが非常にかかり、調整のコストも増えるので、なかなか難しかった。だから今まではそれをアンバンドリング(分割)していたわけですが、今やデジタル化のおかげでそういう調整コストが極端に下がって、他社と上流から下流まで一挙に連携をしても、さしてコストはかかりません。 下流のほうで、AIで需要を予測してもらって、そのデータを上流まで飛ばして、その情報が上流から下流まで同期的にシェアできれば、サプライチェーンの波を平準化してリードタイムを短くすることは、いとも簡単にできます。それがなぜできなかったかというと、デジタル化が遅れていることに加えて、そもそも企業間の上流から下流で連携していないので、デジタルの技術がいくら発達したところで、連携していないものはどうにもなりませんでした。 ここでCLOが誕生して「連携しよう」「でも、連携するにはどうしたらいいか」となった時に、「デジタルの技術があるよ」となれば、話は全然変わってきます。 いったんそれがうまくいくと、「なんだ、上流から下流で連携したり、手の内化するのって、大してコストがかからないから、もっと手を伸ばそうか」「もっと手を伸ばすためには、デジタルテクノロジーのよりよいものがあるじゃないか」といったように、上流から下流までの連携が、デジタル化と相まってどんどん伸びていくのではないでしょうか。 それは、物流コストが安くて世界が平和だった2000年代には到底考えられなかったことで、あの頃はむしろアウトソースばかりしていたんですよね。それが流行で、そうしないと生き残れない、グローバリゼーションだ、といっていたんですけど、それは間違いだった。