映画『アイヌプリ』:この時代を“アイヌ式”に生きることとは? 福永壮志監督が初のドキュメンタリーで“肉迫”
渡邊 玲子
『山女』の福永壮志監督が初めて手がけたドキュメンタリー。前々作『アイヌモシㇼ』撮影中の2018年に知り合った家族に、コロナ禍を挟んでおよそ3年半にわたり密着した。「マレㇷ゚漁」と呼ばれる伝統的なサケ漁などアイヌ文化を継承し、日常の中で“アイヌプリ(アイヌ式)”を実践する人々に迫る。福永監督と出演した家族に撮影の裏側を聞いた。
伝統のアイヌ式サケ漁にひかれて
映画『アイヌプリ』は、北海道・白糠町(しらぬかちょう)で生きるアイヌの家族に密着し、先祖から受け継いだ漁の技法、文化や芸能、信仰を“楽しみながら”次世代に伝えていく彼らの等身大の姿を映し出す。先の釜山国際映画祭や東京国際映画祭でも公式上映され、大いに話題を集めた。
監督は、阿寒湖畔のアイヌコタン(集落)を舞台とする劇映画『アイヌモシㇼ』を撮った福永壮志。その撮影中に出会ったのが、のちに『アイヌプリ』に出演する「シゲ」こと天内重樹だった。 『アイヌモシリ』には、アイヌコタンの重要な行事「まりも祭り」の場面が登場する。阿寒湖から80キロ以上離れた白糠町に住むシゲも参加していた。シゲは白糠アイヌ協会会長で、聞けばアイヌの伝統的な道具「マレㇷ゚」を使ったサケ漁に取り組んでいるという。 福永監督は2018年秋、シゲに付いてマレㇷ゚漁を見学させてもらった。 福永 ただ自分がやりたいからという純粋な理由で暗い中、冷たい川に入り、手づくりのモリで楽しそうにサケを獲る。その姿に感銘を受けました。それで翌年『アイヌモシㇼ』の完成直前に、プロデューサーと共にシゲちゃんを訪ね、ドキュメンタリー映画を撮らせてくれないかと相談したんです。 シゲ 知らない人がいきなりやってきて、「密着したい」と言われたら、さすがに断ったと思います。でも監督は『アイヌモシㇼ』の撮影を通して、すでに阿寒のみんなと仲良くなっていたので、信頼できました。
撮影は19年秋に始まり、約3年半に及んだ。 映画の冒頭、未明の川べりに現れたシゲ。漁を始める際、まず火をつけたタバコを1本お供えし、神々に祈り(オンカミ)を捧げる。木を削って作ったイナウ(祭具の木幣)が神と人を結ぶ「依り代(よりしろ)」の役目を果たしている。 シゲがサケ漁に使うマレㇷ゚は普通のモリと違い、先端に楕円(だえん)の弧を描く鉄鉤(かぎ)が取り付けてある。鉄鉤はひもで結ばれていて、突き刺すと柄から外れ、獲物が釣り下がるようになっている。 シゲは獲ったサケを鉤から外すと、左手で尾をつかんでぶら下げ、「イナウコレ」と唱えながら右手に握ったイパキㇰニで頭を3度殴る。そして仕留めたサケに「ありがとう、がんばったな」と声を掛ける。サケはアイヌにとって、カムイチェㇷ゚(神の魚)やシペ(本当の食べ物)と呼ぶありがたい食材なのだ。