【ハリスvsトランプ】オクトーバーサプライズは起きるのか?
米国では、大統領選挙の結果に多大な影響を及ぼす10月の驚くべき出来事を「オクトーバーサプライズ」と呼んでいる。サプライズには、「意外な事」「びっくりさせるもの」「不意打ち」および「奇襲」といった意味がある。思いがけない出来事にでくわして、ショックを受けた場合にもサプライズが用いられる。また、突然あることに気づいた場合もサプライズが使われる。 2024年米大統領選挙は、サプライズの連続だ。テレビ討論会におけるジョー・バイデン大統領(以下、初出以外敬称および官職名略)の大失敗、ドナルド・トランプ前大統領を狙った2回にわたる暗殺未遂事件、選挙戦からのバイデン撤退と後継候補カマラ・ハリス副大統領の起こしたハリス旋風。 ハリスとトランプによる民主・共和両党の大統領候補による選挙戦は、両者の勢力拮抗のまま、最終盤に突入した。投開票日の11月5日(現地時間)までに、どのようなオクトーバーサプライズが起きるのか。まず、過去3回の米大統領選挙におけるオクトーバーサプライズを紹介する。
ハリケーン・サンディ
2012年米大統領選挙において、筆者が経験したオクトーバーサプライズを紹介しよう。コミュニケーションと多様性の研究目的で、南部バージニア州フェアファックスにあったオバマ選挙対策事務所に、筆者はボランティアの運動員として入った。 バラク・オバマ大統領(当時)は、再選を目指していたが、9月に開催されたライバルのミット・ロムニー大統領候補(同)とのテレビ討論会で、ロムニーの攻撃的な議論に対してうまく反論と再反論ができなかった。 討論会後に行われたピュー・リサーチ・センターの全国世論調査(12年10月4~7日実施)では、登録した有権者の支持率が、オバマとロムニー共に46%になり、オバマはロムニーに追いつかれてしまった。 その後、ハリケーン・サンディが東部ニュージャージー州に上陸し、甚大な被害をもたらした。投開票日の8日前、10月29日の出来事であった。 共和党のクリス・クリスティニュージャージー州知事(当時)は、ロムニーの熱烈な支持者で、選挙期間中、彼に同行することが度々あった。クリスティは個性が強く、断定的なコミュニケーションをとる傾向がある。 中西部アイオワ州での共和党党員集会における選挙集会では、有権者にロムニー支持を強く訴えた。筆者は州都デモインで、早朝に屋外で開催されたロムニーの選挙集会に参加したが、全身が凍えるような寒さにもかかわらず、クリスティはロムニーこそがオバマを破る可能性が最も高い候補者だと熱く有権者に語りかけていた。 オバマの批判を繰り返し、彼に対して敵対的な態度をとっていたクリスティは、ロムニー陣営の反オバマの急先鋒に立っていた。しかし、サンディ襲来後、連邦政府から復興のための巨額の補助金を必要としていたクリスティは、オバマに対する態度を一変させて、協調的な姿勢を見せた。ニュージャージー州の被災地を並んで視察する2人には、親しげな雰囲気さえあった。その映像が全国に流れたのだ。 当日筆者がオバマ選対に行くと、高齢のボランティアの運動員(白人女性)が、「サンディがオバマとクリスティを結び付けてくれたの」と、満面の笑みを浮かべながら話しかけてきた。オバマ選対のスタッフ(韓国系男性)は、ガッツポーズをとっていた。このとき、選対はオバマの勝利を確信しているようにみえた。 サンディの奇襲。それに伴ったクリスティの態度の変化が、強烈な視覚に訴えて、有権者にサプライズを与えた。それが投票行動の変化に繋がった。