子どもが就職に失敗、大学院に進むと希望。遺産としてお金を遺すより、学費として先渡しするほうが有意義
◆親のものさしを押しつけない もし、子どもが就職から逃げて進学を希望しているという態度なら、「どうして大学院に行きたいのか、その理由を説明しなさい」と言いましょう。ただ、それは形式的なものと捉えてください。なぜなら、しょせん社会に出る前の“ハナタレ小僧”の言い分です。何を聞いても、経験豊富な親からすれば、「世間はそんなに甘くないのよ!」と言いたくなるだけ。それでも子どもが懸命に考えて出した答えなら親にも伝わるでしょうし、今の時代を考え合わせたら、進学するのは悪いことではないと思います。 また、大学院に行ったとしても、2年後、本当に就職できるのだろうかという心配があるかもしれません。ならば、進学する前に「修了後は今度こそ社会に出て自立すること」という条件を提示するのも一案でしょう。ここで大切なのは、子どもがこの先どんな職業に就いても口を挟まないこと。人手不足のご時世ですから、本人に働く気があり仕事を選ばなければ就職はできるはず。親の「大学院まで出たのに……」という勝手なものさしは捨てることです。 読者のなかには、右肩上がりの経済やバブル時代を経験した方が多いでしょう。学歴だとか、一流企業だとか、そんな肩書きがものを言う時代のものさしが自分のなかに残っていれば、「アルバイトで生活できるの? 正社員じゃなきゃ」とか、「せっかく大学院を出たなら一流企業へ」とか、「大学院に行って就職できなかったら学費が無駄になる」などと思ってしまいがちです。 けれど、子どもに自分のものさしを押しつけてはいけません。昭和は遠い昔。未来に希望が持てない時代を生きる子どもたちとは、ものさしがまったく違うのです。大学院の学費を出すと決めたら、先々のことを妄想するのはやめましょう。そして子どもが大学院を修了したら、その先はもう親の出る幕ではありません。子どもが選ぶ道を親はただ受け入れ、見守るだけです。言い方を変えれば、放っておくこと。それも教育です。親も子も自立と自律を学ぶ良い機会と捉えれば、幸せな未来の道が見えてくるでしょう。 (構成=やしまみき)
江原啓之