陰謀論で母を失った男性「あの時、寄り添えていたら」 極限の不安から飛びついた「真実」の危うさ
■「陰謀論」と日常が同居 ロシアのウクライナ侵攻、東京都知事選や、先の兵庫県知事選。対象を次々に変え、荒唐無稽な主張をSNSで拡散し続けている。 「『真実』を知っている人に見られたい。ある種の承認欲求を満たしているのかもしれません」(同) 母との連絡は、必要が生じたときに限っている。母と一緒に暮らし続けている父も、会話はほとんどしていない。無理に話さなくていいというスタンスだ。 当の母も、陰謀論のスイッチが入ったとき以外は、昔と同様に買い物をし、料理などの家事もこなしている。決定的に壊れた関係性と、昔と変わらぬ日常が同居している。 「それでも母と共存はできません。特定の国の人を中傷したり、健康や医療にかかわる誤った情報を拡散したりする人を、私は到底容認することはできないですから。生活が混乱しています」と、ぺんたんさん。 ■「陰謀論」はいつの時代もある 陰謀論は太古の昔からあり、絶対になくなることはないと、ぺんたんさんは考えている。だから、ぺんたんさんたちのようなごく普通の親子に起きた悲劇は、今後も起きる。 「ネットで簡単に『答え』を探せる時代ですから、自分や周囲の誰にも陰謀論にハマってしまうリスクはあります。私の経験を知ってもらうことが、予防接種のワクチンようになればと願っています」(同) 混乱し、怒って泣いて、最後はあきらめて――。最愛の母を「失った」ぺんたんさんの、素直な思いだ。 なにかのきっかけで、母にこの漫画が届き読んでもらえたら、とも。 「この漫画の女性、ずいぶん私に似ているな。この男性のように、息子も怖い思いをしたのかな、と母が気付いてくれる。そんなふうになれば、すてきだなって。でも、そうならないでしょうけどね」 ぺんたんさんはさみしそうに笑いながら、そんな願いも口にした。 (ライター・國府田英之)
國府田英之