陰謀論で母を失った男性「あの時、寄り添えていたら」 極限の不安から飛びついた「真実」の危うさ
■極度の不安を解消してくれたのは 「コロナ禍での極端な言説を信じてしまう素地は、母にはあった気がします。年をとるにつれ、時代についていけなくなって世の中への不安が増幅し、さらに極端な言説に引っ張られやすくなったのかもしれません」 そして、極度の不安にかられ、やっとそれを解消してくれる「真実」と出会った。家族を守りたいと、その真実を訴え続けた、ある意味で無垢な母。 そんな母に対し、ぺんたんさんは「悪手」を打った。「説得」という名の全否定だ。 「バックファイア効果」という現象がある。人は自分の信念や考えに反する情報を提示されたときに、それを否定して、考えをより強固にしてしまう傾向のことだ。 ■寄り添うことができていたら 「母はとんでもない情報に飛びつきながら、想像を絶する不安を解消しようとしていたのでしょう。なのに、当時の私は情報のファクトチェックをして、母を正面から全否定した。母を不安な世界に戻そうとする行動をとってしまいました」(ぺんたんさん) 「確かにコロナは怖いよね」 「その話が本当かはわからないけど、ちょっとでも安心できるなら、気にしてみてもいいかもね」 そんな声かけをして、不安に寄り添うことができていたら、結果は違ったかもしれない。 近くにいて、テレビや新聞の情報をかみ砕いて教えてあげていたら、どうだっただろうか。 ■できることはすべてやったが… そんな悔いにも似た「もしも」が、今のぺんたんさんの心にはある。 「当時の私にできることはすべてやったと思いますし、自分を責める気持ちはありません。ただ、いまの私が得た知識が当時あったら、そういう接し方ができたのかな、とも思います。もし大切な人が陰謀論にハマりかけたら、否定はしないで、何が不安なのかを知ろうとしてあげてほしいと思いますね」(ぺんたんさん) 時間は戻らない。 ぺんたんさんの母は、今も陰謀論にどっぷりつかったままだ。