鍋振るう腕、喜びに震え 朝市の中華店主、能登空港で仮設飲食店街開業
●輪島、穴水、志賀6店で復興従事者支援 能登半島地震を受け、石川県が能登空港に整備した仮設飲食店街「NOTOMORI(のともり)」が2日、オープンした。輪島、穴水、志賀の3市町から和食や中華、カフェ6店が出店し、輪島・朝市通りの大規模火災で焼失した名物中華料理店「香華園」も10カ月ぶりに復活。「中華鍋を振るう腕が震える」。店主は久しぶりの調理の喜びをかみしめ、災害ボランティアや応援行政職員、観光客の胃袋と心を満たした。 【写真】全国からの応援職員や災害ボランティアらでにぎわう店内 1960(昭和35)年、朝市通りで創業した香華園は、町中華の名店として愛された。今年の元日、3代目店主の板谷吉生(よしお)さん(48)は同市門前町の親戚宅で被災。1月4日、やっとたどり着いた自宅は全壊し、店は焼失していた。 ●焼け跡から調理道具 心が折れ、避難先の小松市から足取り重く輪島に通い、解体に向けて店の後片付けを続けた。すると、焼け跡から調理道具が出てきた。スープを煮る寸胴(ずんどう)鍋も2月に見つけた。「店をやれってことやな」。板谷さんは再建を決意した。 県から5月に「のともり」出店を打診された際、自信がなく保留した。しかし、周辺で営業していた飲食店が市内の炊き出しに励んでいると知り、やる気が湧いた。「やりたいなら、やってみなよ」。妻の真紀さん(51)に背中を押され、6月に出店を決めた。 「のともり」では、近所だった飲食店「まだら館」と隣同士になった。2日は、以前アルバイトをしていた専門学校生の橋本心花さん(20)が金沢から駆けつけ、板谷さん夫婦を助けた。キッチンには焼け跡で見つけた寸胴鍋。「能登復興に向けて頑張る」。再び朝市通りに出店する日を夢見て、板谷さんは笑顔で鍋を振り、ラーメンやチャーハンなどを出した。 「のともり」は、能登半島地震の復旧復興活動に携わる人々の飲食をサポートするため県が整備した。営業時間は午前6時から午後10時。常時100席以上があり、初日からにぎわった。 通信環境完備のワークスペースや、能登官民連携復興センターのオフィス、分煙の喫煙エリアもある。オープン式典で馳浩知事が「地震からの復興の拠点となることを念じている」と述べた。善田善彦県議会議長が祝辞、出店代表の板谷さんが決意を述べた。