謎の天体「奇妙な電波サークル」は銀河の爆発的な星形成が生み出した?
こちらは南天の「くじゃく座(孔雀座)」の方向にある「ORC 1」と呼ばれる天体です。ORCは「Odd Radio Circle」の略で、日本語では「奇妙な電波サークル」という意味になります。この画像は南アフリカ電波天文台(SARAO)の電波望遠鏡「MeerKAT(ミーアキャット)」を使って取得されたORC 1の画像を緑色に着色した上で、背景に別の望遠鏡で撮影した星空が合成されています。 今日の宇宙画像 ORCは実際には泡状の構造をしていると考えられています。直径は銀河よりも大きな約100万光年で、中心には銀河が含まれていることもわかっています。その名前が示唆するようにORCは電波だけで観測可能な天体とされていて、見つかった場所を可視光線・赤外線・X線といった別の波長の電磁波で観測しても、対応する構造は見つからないとされていました。 中心に銀河があることから、ORCの形成には銀河が関わっているのではないかと予想されていました。カリフォルニア大学サンディエゴ校のAlison Coil教授を筆頭とする研究チームは今回、スターバースト(大質量の恒星が短期間に数多く誕生する現象)にともなって銀河から流れ出た銀河風によってORCが形成された可能性を示す研究成果を発表しました。研究チームの論文はNatureに掲載されています。
前述の通りORCは電波でしか観測できない天体とされていましたが、研究チームはW. M. ケック天文台(ハワイ)の「ケック望遠鏡」に設置されている可視面分光装置「KCWI」を使用して、「かんむり座(冠座)」で見つかった別の“奇妙な電波サークル”「ORC 4」の観測を行いました。この天体は北半球から観測可能な初のORCとされています。 観測の結果、ORC 4には高輝度かつ高温の圧縮されたガスが一般的な銀河と比べて多く存在することが判明。可視光線と赤外線の観測データを使用してさらなる分析を進めた研究チームは、現在観測されているORC 4の銀河は年齢が約60億歳の星々で構成されていて、スターバーストが停止してから約10億年が経っていると判断しました。 観測で得られたこれらの情報をもとに研究チームがシミュレーションを行ったところ、スターバーストで形成された複数の大質量星が同時期に超新星爆発を起こしたことで銀河風が生じ、電波を放出する殻状の構造……すなわちORCを形成した可能性が示されました。銀河風は銀河の内部から外部へと流出するガスの流れで、たとえば天の川銀河の近くでは「おおぐま座(大熊座)」の不規則銀河「M82」で観測されています。