同性婚合法化から10年、「変化する英国」の現在地 いじめや差別乗り越え…「自分らしく生きられる人が増えてほしい」
マイノリティーとして意識しなければいけないのは「誰もが理解してくれるわけではないということだ」とティルさんは語る。「理解できない理由は数え切れないほどあるし、私たちの母親でさえそうだった」。エイズが流行した1980年代に「自分の息子がゲイだと分かった時の母親の気持ちを想像してほしい」。 結婚式の前にそれぞれの母親に書いてもらった手紙には、これまで聞いたことがないようなことがたくさんつづられていた。ティルさんは、カミングアウトした時に母親が否定的な反応をしたのは「息子は病気になるのだろうか、もう彼を守れないのではないか」という不安や恐怖を感じていたからだと知った。 式の様子はテレビ番組で放映され、大きな反響を呼んだ。約40年連れ添ったパートナーと結婚できないまま死別した男性や、母親にカミングアウトして勘当された16歳の少年ら、多くの人から手紙やメールが届いた。テイラーさんは「ミュージカル婚を通じて、愛は全ての人にとって普遍的なものだと伝えたかった。物語の主人公は彼らなんだ」と語る。
▽「法律が味方なら行動できる」 同性婚は2001年、世界で初めてオランダで合法化された。現在は米国や台湾など30を超える国・地域で認められており、今年3月27日にはタイでも法案が可決された。一方、アフリカや中東など同性愛を違法とする国も多い。日本でもまだ同性婚は法制化されていないが、3月中旬に札幌高裁が同性婚を認めない法律の規定を憲法違反と判断するなど、法改正を求める声も高まっている。 合法化で何が変わったのか―。「結婚で人生は計り知れないほど良くなった」とテイラーさんとティルさんは声をそろえる。法律が変わっても人の考えを容易に変えることはできないが「法律が味方であれば、立ち上がって行動できる。それが法的平等の重要な点だ」と力を込めた。 ▽「男女」に分けられるのが苦痛 性的多様性や婚姻の平等について交流サイト(SNS)などで発信し、ネットフリックスの番組「クィア・アイ in Japan!」にも出演した日本人のKanさん(32)は、英国人パートナーのトムさん(29)と英国で結婚した。日本でも「自分らしく生きられる人が増えてほしい」と願い、同性婚の早期法制化を訴える。