突然の解散と進まぬネット活用が原因?「投票したいけどできない」 漁師熱望の洋上投票が形骸化【宮城発】
衆院選の問題と技術革新
長年の悲願だったはずの洋上投票は、なぜ利用されなくなってしまったのか。遠洋漁業の漁業者でつくる宮城県北部鰹鮪漁業組合の勝倉宏明代表理事は「いつ解散があるかわからない状況の中で、洋上投票の事前の手続きを行えた船はない」と制度の問題点を指摘する。洋上で投票するためには、出航前に投票用紙を申請し受け取っておくなど事前の準備が必要。参院選は投票時期が決まっているが、衆院選は解散総選挙があるため、航海中に解散されてしまうと投票のしようがない。 また、通信環境や機器も進化し、選挙管理委員会のアナログなファクスとのミスマッチが起きているという。宮城県北部鰹鮪漁業組合によれば、選管の受信機は洋上投票が導入された時から大きく変わっておらず、通信環境が整った漁船から送られた投票用紙をうまく読み込めないケースがあるという。実際、今回の衆院選でも石巻市が受け付けた実習船からの洋上投票で、読み取りできなかった票が1票あり、無効票として処理されていた。
「ネット投票へ」遅い政治判断
気仙沼市の選挙管理委員会もシステムの問題を認識していた。「仕組みが今の時代にマッチしなくなり、投票が少なくなってきている」とファクスを用いた投票システムに限界が来ていることを認める。 選挙制度に詳しい東北大学大学院の河村和徳准教授はインターネットを用いた投票システムに置き換えるべきだと指摘する。さらに、洋上投票だけでなく、南極投票(南極地域観測隊の隊員を対象に昭和基地からファクスで行う投票)や在外選挙人の郵便投票もインターネットに置き換えることが必要だという。河村准教授は「在外投票にインターネット投票を利用するというのは技術的に克服されている。制度的にも十分検討され、あとは政治がGOサインを出すだけの状況になっている」と政治判断が待たれている現状を説明する。
今も「投票したいけどできない」
投票権は18歳以上の日本国民に与えられた重要な権利。投票総数から見たらわずかな票でも、その一票には有権者の意思が込められている。洋上投票が機能しなくなっている事実はあるが、投票への熱意がなくなったわけではないのだ。宮城県北部鰹鮪漁業組合の勝倉宏明代表理事は「乗組員も投票したいんですよ。投票したいけどできないという状況がずっと続いている。乗組員の投票する権利を行使させてほしい。投票できる環境を作ってほしい」と強く訴えた。 国民の重要な権利である選挙権が制度の問題で行使できないことはあってはならない。いわば「制度疲労」を起こしている現在の仕組みは早急に見直す必要がある。
仙台放送