室屋成がドイツで勝ち取った地位。欧州の地で“若くはない外国籍選手”が生き抜く術とは?
気がつくと室屋はスタメンの座を取り返していた
2021―22シーズンに指揮を取っていたクリストフ・ダブロフスキ監督に室屋をどのように評価しているのか尋ねたことがある。 「セイはいつでも意欲的にたくさん走り、1対1の競り合いにも強い選手だ。闘争心の面から見てもトップパフォーマンスを見せてくれていると思う。彼は波の少ない安定感のあるプレーヤーだし、今季は何度もいい試合をしてくれた。将来的にもっと攻撃面での成長を見せてくれることを願っているよ。クオリティのあるセンタリングを上げられる機会を増やしてくれたら。そのポテンシャルは間違いなくある。フィジカル的にも非常にいいものを持っている選手なんだ」 室屋がドイツへ渡った時期はちょうどコロナ禍。リーグは中断され、再開されても無観客、その後も制限のある中での試合が続いていた。取材をするためにスタジアムへ足を運んでも、選手にコンタクトを取ることはできない。それでも話を聞けないならスタジアムまで取材に行く意味がないのかというとそんなはずはない。グラウンドでの所作や仲間とコミュニケーションを取る様子はモニター越しではわからない。 印象深い試合がある。あれは2021―22シーズンの第32節、ホームでのカールスルーエ戦だった。このシーズンはチームとして苦戦の連続で順位も大きく後ろに下げ、2部残留が危ぶまれる時期もあった。安定しないチーム事情のなかで室屋にも出場機会がない試合だってあった。それでも気がつくと室屋はスタメンの座を取り返していた。 この試合でも、攻守にキレのあるプレーを次々に見せていた。後ろで動き出す相手選手を認知しながら、そこへのコースを消しながら、相手にプレスをかけてパスをカットしたり、鋭い出足でインターセプトを何度も決めた。ボールを受けると味方選手に鋭いジェスチャーで「もっと速くサポートに来い!」と指示を出し、足を止めない連続プレーでシュートまで持ち込むシーンもあった。ファンの「シュートを打て!」の叫びがシンクロする。ゴールとはならなかったが、タイミングを見逃さない好プレーにスタジアムは沸いた。 途中交代後もベンチからチームを応援。アディショナルタイムに味方が試合を決定づけるゴールを挙げると、ベンチの仲間に「一緒に駆け出そうぜ!」と合図を送りながら、喜びの輪ができていくチームメイトのもとへかけていく。そして2部残留を確定させた。