「お金を渡すと、彼の機嫌は良くなった」26歳の女は、82歳の男性をなぜ刺したのか 知的障害、ADHD、DV…搾取され続けた日々、裁判員は「やるせない」と表現した
Aと一緒にいるために、と自らに課したノルマは1日2万円。分け前はもらえなかった。そのうち、客から盗んだ金も合わせて渡すようになった。 「当時はそれで良かった。理由はわかんないです」 金を渡すとAの機嫌が良いとは感じていた。盗みがばれるなど、客とトラブルになった際は、Aが対処した。被告は人とのコミュニケーションが得意でないためだ。 ▽「恋愛感情を利用された」 公判で被告は、まず「私のせいで死なせたおじいさんのことで、とても後悔しています」と述べた。しかし、自分の行動の理由や感情の説明を求められると「わからない」と繰り返した。 浮き彫りになったのは、Aに依存し搾取されていた状況だ。 弁護人は公判の最後に「好意のある男性のために自分の体を売るという矛盾」と表現し、社会への適応が難しい障害の影響があると訴えている。この点は判決でも「恋愛感情を利用されて売春を繰り返す中で本件犯行に至った」と指摘されている。
ただ、被告がAに従った理由は、恋心からだけではなかった。 公判で被告はDVを受けていたことを明かしている。 「ほぼ毎日、おなかを殴られたり蹴られたり、髪を引っ張られたりした」 そのときの気持ちをこう吐露している。「怖かった。でも好きという気持ちもあった」 実は被告は事件までに、DV被害で警察に2回保護されている。しかし、その都度Aの元に戻った。1度目は自ら「一緒にいたい」と望み、2度目は祖母宅に引き取られたが、その後Aに呼び戻された。 池袋の事件が起きたのは、Aに呼び戻されてすぐのことだ。 「ノルマだけは頑張れよ」と言い含められ、池袋で初めて客を探した。トラブルに対応するはずのAは、その日に限って近くにいなかった。 「刺しちゃった」 被告はホテルを出るとすぐ、Aに電話で報告した。事件が明るみになり、被告だけでなく、一緒にいたAも逮捕(犯人隠避容疑)されたが、結局不起訴になっている。