「お金を渡すと、彼の機嫌は良くなった」26歳の女は、82歳の男性をなぜ刺したのか 知的障害、ADHD、DV…搾取され続けた日々、裁判員は「やるせない」と表現した
2022年1月21日、東京・池袋の路上。女の被告(26)は、面識のない82歳の男性に声を掛けた。持ちかけたのは援助交際。2人はそのまま近くのラブホテルの一室に入った。 知的障害の長女に「しばけ」「殴れ」 3歳児を死なせた8人家族に起きたこと
男性が部屋のシャワーを浴びている隙に、被告は男性の財布からこっそりと3万円を抜き取ったが、気付かれた。とがめられて口論に。被告は持っていたカッターで男性の胸と太ももを突き刺すと、男性は出血性ショックで死亡した。 援助交際は、この時が初めてではない。財布から現金を盗むこともたびたびあった。半年ほど前から、同じようなことを毎日のように繰り返していたという。その背後には、好意を寄せていた男Aの存在があった。客を手配され、稼ぎをむしり取られる毎日。そこから抜け出すことができなかったのはなぜか。半生を振り返ると、その困難さが浮き彫りになった。(共同通信=帯向琢磨、木下リラ) ▽自傷、入院、出産… 2月20日に東京地裁で言い渡された判決や、それまでの公判などで明かされた内容を総合すると、広島県で生まれた被告には注意欠陥多動性障害(ADHD)や軽度の知的障害があった。 小学5年生の時に特別支援学級に入り、特別支援学校の中等部、高等部を卒業。16歳の時、妹とのささいなけんかをきっかけにスーパーの屋上から飛び降り、脚に後遺症が残った。18歳時点での精神年齢は10歳。卒業後は薬の過剰服薬(オーバードーズ)や自傷行為、幻覚や妄想での入院も複数回経験していた。
22歳の時、女児を出産。父親が誰かは公判で明かされていない。しかし、出産後まもない2020年5月ごろに家出をし、東京に出る前は広島県内の公営住宅で1人暮らしをしていた。 弁護人「長女はどうしていたのか」 被告「母に預けていた。特別養子縁組をしていた」 長女を置き去りにしたことへの反省や後悔の言葉はなかった。 2021年5月ごろ、オンラインゲームを通じてAと知り合う。2人は翌6月に名古屋市で落ち合い、東京都内のネットカフェでの共同生活が始まった。 Aが好きだったというが、東京へついていった理由や、どこが好きだったかを公判で問われると、「わかりません」と語った。 ▽「生活費のためだと…」 2人は東京でどのような共同生活を送っていたのか。 当初の収入は被告が受け取っていた障害年金のみで、2カ月で14~15万円ほど。それだけでは生活費が足りず、売春を始めた。最初からAの指示だったのかどうかは「覚えていない」。弁護人から「嫌という気持ちはなかったか」と問われると「なかった。生活費のためと思っていた」と淡々と答えた。