高校商業科でアントレプレナーシップ教育のなぜ、カギは「さまざまな可能性に気付くこと」 スーパースターでなくとも起業の裾野広げて
「普通の子」こそ起業家精神を学び、他者と協力する力を
だが、髙見氏は課題もあると指摘する。まず挙げられるのは、商業科のこうしたインフラとしての価値を、行政や現場が十分に認識・活用できていないことだ。つまり国や県、教員もまた、商業科の「可能性に気付く」必要があるというわけだ。 「優れた資源がありながら、これまでの商業科は、簿記などの資格取得に偏った教育を行ってきました。普通科高校にいた先生が校長として商業科に赴任して、『この強みを生かさないなんてもったいない』と、改革に着手する例も見聞きします。さらに最近では普通科でも探究学習に力を入れてきていますから、商業科はいつの間にか『お株を奪われた』状態にもなりかねません。少子化に伴う高校の統廃合は全国的な問題ですが、その際には商業科などの専門学科がターゲットになることも多いのです。しかし本当に簡単になくしてよいものなのか、教育行政に関わる方々には商業科の価値を改めて考えてほしいのです。現場の先生方にも今一度、商業科の存在感を発揮しましょうと呼びかけ続けています」 アントレプレナーシップ教育に限らず、新たな学びの創造に必要なスキルを持つ教員が不足していることも課題だ。国は著名な起業家など、外部講師を招いた単発の出前授業などを推奨している。これは比較的手軽に実施できるが、それだけでは地元を巻き込んだリアルな取り組みには発展しない。 「とくに地域連携では、学校外の専門家らとのつながりが欠かせません。しかしこうした人脈や知見を持つ先生は限られており、同じ先生に負担が集中しがち。私が取材した先進校の多くは、コーディネーターとなる外部支援者とも連携しています。この点は継続的な支援が必要です」 そして、この人員不足と切り離せない最大の壁が予算である。お金をかければ、知見を持つ教員や外部人材を増やすこともできる。だが予算の点で公立高校は私立高校にかなわないし、過疎地の高校は都市部の高校に勝てない。先進校の台頭は望ましいことだが、一方で予算のある学校や都市部の学校だけでアントレプレナーシップ教育が深まれば、学びは二極化し、起業家はより遠い存在になる。この格差を防ぐためにも、髙見氏は全国の商業科に出向き、研究と支援を続けている。 「成功例が周りにたくさんあれば、起業家精神は若者にもっと広がっていくし、こうしたことが地域社会を豊かにすると考えます」 (文:鈴木絢子、注記のない写真:msv / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部