高校商業科でアントレプレナーシップ教育のなぜ、カギは「さまざまな可能性に気付くこと」 スーパースターでなくとも起業の裾野広げて
高校時点での教育は効果大、可能性に気付けば未来も広がる
各校で行われるプロジェクト自体は、決して奇抜なものではない。例えば、北海道函館商業高校では市内の飲食店と協働したお弁当を開発・販売した。また、奈良県立商業高校では、地元図書館でのカフェ運営などにより、地域の居場所を提供している。共通点は、生徒自身が地域の課題やニーズに向き合い、地域の大人と関わり合いながら、ビジネスによる解決策を導き出したことだ。 昨今は大学でもベンチャー創設に力を入れているが、髙見氏は、より早い段階でのアントレプレナーシップ教育を推奨している。 「高校の商業科での取り組みは、近年の大学発ベンチャーの動きよりもずっと長い歴史があります。その分の蓄積があるし、高校のほうが地域格差も少ない。また最近では、若年期・思春期のアントレプレナーシップ教育の有効性を主張する研究も出てきています。早い時期に起業家精神を身に付ければ、未来の選択肢も広がり、その効果は大きくなりやすいと考えています」 髙見氏は長年の経験の中で、学びの効果が表れた実例を何度も目にしてきた。「自分は社長をやるタイプじゃない。でも起業する人を支えたい」と、大学に進学して税理士を目指すようになった卒業生もいれば、いったんは大企業に就職したものの「ここでは自らの起業家マインドが生かせない」とすぐに転職し、新たな職場でITインフラを大改革した卒業生もいる。 「地域密着の会社を起こしたいと考える生徒や、地元のベンチャーに就職した卒業生にも出会いました。アントレプレナーシップ教育を経験した生徒たちは、仲間や地域の大人との協働を通じ、組織の中で何ができるかを知っていきます。自分の適性ややりたいこともわかってくるので、進路選択やその先の生き方にも影響する。生徒本人も保護者も、商業科での豊かな経験や学びを通じて、将来の可能性に気が付くという経験をするようです」 髙見氏が語る「可能性に気付く」という点は、高校商業科のアントレプレナーシップ教育における重要なキーワードかもしれない。生徒が自分の力に気付くだけでなく、地元の人が地域資源の可能性に気付くということも起きている。 例えば岐阜県立岐阜商業高校では「株式会社GIFUSHO」を立ち上げ、長く地域振興のビジネスを行ってきた。同社の実績のひとつに地域の和菓子店と行った「鮎菓子」のアレンジがある。その名のとおり、鮎をかたどった岐阜県の郷土菓子で、求肥を包むカステラ生地は通常はこんがりとしたきつね色だ。だが岐阜商の生徒が「鮎菓子ってかわいい。色をつけたり、顔を変えたりしたらもっとかわいいのでは」と提案したのだ。こうして生まれた新しい郷土菓子は地元のメディアに紹介され、地域の販売会でも人気を博した。 「地元の大人たちはもちろんこのお菓子を昔から知っていましたが、『そうか、鮎菓子ってかわいいのか』と改めて気付かされたそうです。取り組みが高校生だけでなく、大人にも気付きを与えた。地域社会から教わるだけでなく、高校生からも、地域に新たな価値を提供することができたのです。地域連携の学びでは、相互にメリットがあることも非常に重要です」