クラブ史上初タイトル逸「人生で一番悔しい」 新潟GKが背負った思い「ずっと言えなかった」
ルヴァンカップ決勝の名古屋戦でGK阿部航斗が出場
アルビレックス新潟は11月2日のルヴァンカップ決勝で名古屋グランパスと対戦し、PK戦の末に3-3(PK4-5)で敗れてクラブ史上初タイトルを逃した。新潟は立ち上がりからマンツーマンで来る名古屋を相手に、GK阿部航斗を含めて丁寧に自陣からボールをつなぐサッカーを展開して国立競技場を沸かせた。 【動画】「助走心臓に悪い」 小見洋太が決めた”テクテクPK”の瞬間 しかし前半31分にGK阿部が中央に通そうとしたボールを名古屋FW永井謙佑に奪われ、ダイレクトシュートを決められて先制されてしまう。序盤にボール回しで会場を沸かせてゴール裏の新潟サポーターを煽っていた阿部だったが、自信が過信となってしまった瞬間だった。 「完全に自分の視野のミスというか、永井選手の位置が把握できていませんでした。もっと視野を広くやらなきゃいけなかったなと。軽率なプレーだったなと思います」と、阿部は悔しがった。 新潟市出身でクラブの下部組織育ちの阿部にとって、クラブに初のタイトルをもたらせるかどうかのビッグマッチ。リーグ戦ではセカンドGKの阿部は、名古屋の下部組織出身でもあるGK小島亨介の思いも背負って決勝のピッチに立っていた。 準決勝を勝ち上がった直後に、決勝でも起用することを監督に言われていたことを明かし、「普段リーグ戦は、小島選手が出ているので。ずっと(メディアには)言えなかったんですけど、決勝に進んだ時点で出ることは決まっていました。やっぱり少なからずプレッシャーはありましたし、小島選手も相手が名古屋ということで出たい思いがあったと思うのですが、そこを任されて、何とか彼のためにもという思いで戦っていた」と、試合後のミックスゾーンで語った。 それだけの思いを込めた決勝で、自身のミスから先制点を奪われる時点になってしまう。自分たちのサッカーを続けるうえで絶対に気持ちを切り替えることが必要な局面、阿部は何を考えたのか。 「自分で言うのもあれですけど、あのミスでの失点でも、スーパーシュートを決められても、同じ1失点なので、そういう(気持ちの)切り替えの部分はできていたと思います。試合は続くので、あそこでメンタルがブレてしまうと相手に狙われると思うので、そういう姿は見せずに戦えていたと思います。やっぱりあそこで怖がってしまうとチームも上手くいかないですし、個人的にも壁を超えるというか、成長できないと思ったので、メンタル的には難しかったですけど、仲間たちも『切り替え!』って声掛けをしてくれていたので、そのあとはビビらずにできていたかなと思います」 実際、阿部はその後も味方からのパスを受けて左右にボールを散らし、ビルドアップの起点となり続けた。なかなか縦にボールを入れるシーンはなかったが、1-2で迎えた後半40分、阿部の縦パスから新潟の決定機が生まれる。阿部が中央に降りてきたMF奥村仁にパスを通す。そこから右にボールを展開した新潟は、MFダニーロ・ゴメスがカーブをかけたシュートでゴールを狙ったが、名古屋GKランゲラックの好セーブに阻まれた。 あと一歩で追い付いた場面を阿部は「チームとしても、自分としても、理想的なビルドアップができたので、ああいうシーンを増やすのと同時に、リスクとのバランスも考えてやっていけたらなと思いました」と反省を交えて振り返ったが、メンタルを崩さずにプレーを続けた結果の決定機だった。 その後、後半アディショナルタイムにMF小見洋太のゴールで追い付いた時には「本当にありがとうっていう気持ちでした。特に90分のアディショナルタイムで追い付いてくれたのは、本当に助かりました。最終的に負けてしまいましたが、仲間に助けられたなという思いでした」と、PK戦まで及んだ激闘を振り返った。 この120分について「本当に楽しかったです。120分、PK戦まで。名古屋もレベルが高かったですし。ただ自分たちも3度追い付いて、決勝でもやれることを見せられたので。自分のミスで失点がありましたけど、こういういい舞台に立てたことは幸せだなと思います」と言い、あらためてタイトルへの思いが強くなったという。 「間違いなく、自分もそうですし、自分以外の方も、本当に人生で一番悔しい試合になったと思うので。監督からも『それを悔しいで終わらせずにもう一回立ち上がり、上を目指さないといけない』という言葉がありましたが、もう一回、1年後にまた戻ってきて借りを返す気持ちでみんな臨んでいくと思うので、またこの舞台に立てるように頑張っていきたいと思います」 これまでで最も初タイトルに近づいた日の悔しさを胸に刻み、阿部と新潟は次の一歩を踏み出す。
河合 拓 / Taku Kawai