家畜の血で大地汚さず、越冬用に内臓全て調理──それが内蒙古遊牧民の美学
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。同じモンゴル民族のモンゴル国は独立国家ですが、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれています。近年目覚しい経済発展を遂げた一方で、遊牧民の生活や独自の文化、風土が失われてきました。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録するためシャッターを切り続けています。アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。
草刈りが一段落すると、厳しい冬が訪れる。冬のモンゴルは氷の世界である。全てが凍ってしまい、最低気温はマイナス50度になるところもある。 冬は「ウブルジェ」という越冬地に住む。おもに山や小丘の南麓で、日当たりがよく、風を防げる場所が好まれる。しかし、今は一年中このウブルジェに生活するのが現実だ。 私が子供の時は、秋になるとジョサガル(夏営地)(【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮る―アラタンホヤガ第2回で記述)からウブルジェに戻る。するとそこは、ゲルが見えないほど草が茂っている。夏、家畜がジョサガルに行っている間に草が育つのだ。これが従来の遊牧の役割だった。 11月中旬から越冬のための肉の準備が始まる。4人家族で大体、牛一頭、羊5~6頭用意する。家畜を解体し、肉を凍らせて、来年の新しいお肉が食べられる時期まで保存する。冬は凍らせておくが、春になると自然に乾燥されて、干し肉になる。これをモンゴルで「ボルチャ」という。 モンゴルの遊牧民は他の民族と比べて、家畜の喉を切り、その血で大地を染めることを嫌う。彼らは必ず家畜の大動脈を切り、その血を体内に貯めておき、それを腸などに詰め、ソーセージにする。他の内臓も全部、大切に調理し、来年までに食べる。彼らが真っ白の雪の上でこれらの作業を行ってもそこは一切、血に染めることはない。これも遊牧民の素朴な美学なのかもしれない。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第5回」の一部を抜粋しました。
---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。