病に倒れた”タオル界のスティーブ・ジョブズ”が社長に指名したバイト出身の男/聖地・今治で「赤ちゃんが食べられるタオル」を目指して~イケウチオーガニック前編
◆「絶対に社長」採用時から決めていた
―阿部社長を承継者に見据えたタイミングはいつだったのでしょう? 池内:正社員として雇うと決めた、その時からです。 うちのような中小企業には、経営者としてのキャリアを積んだ人材がいません。だから息子に継がせることになるわけです。 阿部は大学できっちり教育を受けたかはわかりませんが(笑)、在学中の4年間で十分に学び遊んでいるし、証券会社やアパレルで働いた経験がある。 しかも、うちが取引先の煽りで連鎖倒産し、再生の途上にあるにも関わらず入社の意思を示してくれた。 非常にありがたい人材でしたね。 「絶対に経営者になってもらわねば」と初めから決意していたので、社長にしないと自分の気持ちが収まりませんでした。 阿部:社長前提での採用とは想像だにしませんでした。 職がなくてぷらぷらしている時に、アルバイトで拾っていただいた身ですから。 「いつかは経営者に」だなんて、おこがましくて考えたことすらなかったですね。
◆タオル界のスティーブ・ジョブズ
―阿部社長は就任後のインタビューで「代表とはタイプが違う」とおっしゃっていましたね。池内代表も同じお気持ちですか? 池内:ええ、正反対です。「よくそんな判断できたな」と感じることもあります。阿部は阿部でそう思っているでしょうし(笑)。 阿部:私にとって、池内はスティーブ・ジョブズです。 起業してブランドを打ち立てた人間は、事業にかける熱量の桁が違う。 私は起業家精神など、ファウンダー(※創業者)特有の資質がゼロなんです。 私から見ると池内の判断は非常に突飛なのですが、本人にしてみれば至極まっとう。 そこが決定的に違いますね。
◆普通そこまでやる…?「食べられるタオル」
―池内代表の判断で、もっとも驚いたものは? 阿部:アルバイト時から驚かされっぱなしです。 イケウチオーガニックが目指すのは「最大限の安全と最小限の環境負荷」。 私の前職は小売業で、ものづくりの業界に身を置いていたからこそ「この企業理念を真摯に追求した場合、会社としてやっていけるのか?」という疑問があったんです。 でも実際に取り組んでいる方が目の前にいる。「ええっ、どうやって実現しているんだ」と感じたのがファーストインパクトでした。 イケウチオーガニックは、自社で使用する電力を100%風力発電でまかなっていますが、お客様にはまったく見えないし、製品にも何も反映されない。でも、企業理念に則って「やるんだ」と。 我々のテーマは、創業120周年を迎える2073年までに「赤ちゃんが食べられるタオルをつくる」ですが、普通そこまでやるかと(笑)。 でも「最大限の安全と最小限の環境負荷」を突き詰めたら、そうあるべきなんですよ、本当に。 それと、池内は思い立ったら即行動。私は「この案を通すためにはどうしたらよいか」と周囲を見て調整しようとするタイプです。 でも、完全な調整なんて無理じゃないですか。結局「落としどころ」にしかなりませんし。 池内:阿部はものすごく緻密に考えますからね。僕は動いてから方法を考える。 阿部が出すアイデアの中身は悪くないんですよ。 なぜあんなに下手なプレゼンをするんだと首を傾げていますけど。 阿部:プレゼン、下手なんですよ。 池内は消費者に届く言葉を持っている。 ブランド認知度を上げる力があるんですよね。