病に倒れた”タオル界のスティーブ・ジョブズ”が社長に指名したバイト出身の男/聖地・今治で「赤ちゃんが食べられるタオル」を目指して~イケウチオーガニック前編
◆父と息子に妥協はないから…
―池内代表にはご子息、ご息女もいらっしゃいますが、そもそもなぜ「ファミリー外」の方に承継したのでしょうか? 池内:現在、国内のタオル業界は非常に厳しい状況です。 要因の一つは、輸入タオルの攻勢です。 かつて1%未満だった輸入率は今や80%にのぼり、そのぶん国内の会社が潰れてしまう。 今治タオル工業組合に加盟している企業も、1976年に約500社ありましたが、2023年には80社程度まで減ってしまいました。 もう一つ、親から子への承継がうまくいかなかったことも、業界が傾いた要因ではないかと思います。 僕と阿部は、元社長と営業部長という関係性は築いてきたけれども、あくまで「他人」です。 良い意味で遠慮がありますし、お互いの妥協点をもって、一段上のステップへと持っていける。 親子の場合は相当難しい。 とくに男と男、つまり父と息子は妥協がありませんから。 うまくいかずに家を飛び出した息子を何人も知っていますし、そうして根絶した会社も見てきました。 ―池内代表自身は、創業者のお父様が急逝されたことで、跡を継がざるを得なかったのですね。 池内:まさに青天の霹靂でした。 親父には「会社に来るな」と言われていたんです。 実家に近かったので、大学生になるまでは足を運んでいたのですが、「お前みたいな遊んでいる奴が来る場所じゃないんだ」と18歳の時にぴしゃりと締め出されまして。 それから33歳で2代目に就任するまで、社の敷居は一切跨ぎませんでした。
◆子どもを成り上がらせてはいけない
―お父様がそこまで強く線を引かれたのはなぜだったのでしょう。 池内:うちのような小さい会社だと、経営者の子は入ってすぐトップに就くでしょう。 コツコツと勤めてきた人にとってはすごく屈辱的なことです。 僕自身、新卒で松下電器産業(現パナソニック)に入社した時に「縁故採用者と扱いが違うな」と思いました。 同時に1000人が入る大企業ですらそう感じるのに、こんな数十人しかいない会社で子どもを成り上がらせたら、従業員の労働意欲が落ちますよ。 ―だからこそ、ご自身の子どもたちに対してもお父様と同様のスタンスを貫こうと? 池内:継がせる気は初めからありませんでした。 息子なんて産まれてから一度も会社に来たことがない。 娘は承継の意思を一時見せていましたが「いきなりうちに来ても使い物にならない。 ちゃんとした会社で研鑚を積みなさい」とよそに送り出したら、就職先で結婚しまして(笑)。 そのまま元気にやっています。