18歳で借金500万円!?奨学金を借りて「大学に行く理由は?」女子高生の「漠然とした将来の不安」に刺さるの声!【著者インタビュー】
大学に行きたかった。けれど、親からは「進学するためのお金はない」と言われていた。進学するためには、奨学金制度を活用するしかなかった。本作は漫画コンテスト「わたしの一番高い買い物」をテーマに制作された、中村環(@nakamura_tamaki)さんの「18歳で500万借金してでも欲しかったもの」だ。今回は漫画を紹介するとともに、自身が体験した奨学金制度や制作の経緯など話を聞いた。 【漫画】本編を読む「借金をして大学へ行く理由とは?」 ■大学に行くため、18歳で500万の奨学金を借りた女の子 新聞奨学金制度を活用し、朝夕の新聞配達で収入を得ながら大学に通いたいと面接に来た女子高生。担当者は今まで面接してきたなかでも、「500万円という額ははじめてだ」と驚いた。「そこまでして行きたい大学なんだね」と、担当者が言うと女子高生は「そんなに行きたい大学じゃない」と答えた。担当者は逆に500万円もの借金をするのに、「なんでそんなに苦労してまで大学に行きたいのか」と、尋ねる。しかし、そこには明確な理由はなく、ただ漠然とした将来への不安があったーー。 ■怠惰な自分を奮い立たせるため「新聞奨学生をしながら大学に通う」というプレッシャーを自分にかける ーーリアルな心情が綴られているような気がしました。本作は実話でしょうか。 すべてが実話ではありませんが、実話の部分があります。 ・当方が新聞奨学生として約500万近くを借りた ・新聞社の奨学金担当者のご年配の男性社員さんに金額の多さを驚かれた については事実です。ただ、「バッドエンドを回避するために新聞奨学生をする」という考えは、奨学金を借りた当時はあまり考えておらず、卒業後に「自分が大学に進学した理由が何だったのか?」「理由をつけるとしたら何か?」と妄想したところがあるので、そのあたりは実話ではありません。 ーー奨学金を借りた理由をお伺いできますか? 家が裕福でなかったからです。また、他の手段についての情報を得る力がなかったためです。小学生のころから「大学に進学するお金はない」と言われて育ちました。また、当時、自分の世代ではちょっと珍しいことかもしれませんが、家にインターネットが通ったパソコンが来たのが高校2年生くらいのときで。ほかの家庭より遅めだったせいか、家族も自分もインターネットで検索することに慣れておらず「新聞奨学生」以外の選択肢を見つけられませんでした。 ーー簡単に経歴をお伺いできますか? 田舎の公立高校(普通科)から東京の私立美術大学の夜間部(デザイン学科)に入学しました。 ーーなぜ、体験談をベースに漫画を描こうと思ったのでしょうか? コミチという漫画投稿プラットフォームがあるのですが、その「今月のお題」に投稿しようと思ったからです。毎月お題が出されていて、2021年12月のお題が「わたしの一番高い買い物」でした。ネタが自分の中にあったので投稿するために描きました。受賞は残念ながら、しませんでした。 ーーそのころの心情とは別に、結果的に大学に進学したことは中村さんにとってどうでしたか? 大学に進学したメリット、デメリットみたいなものは数年に一度くらい、ときどき邂逅するような気がします。あまり印象が強いものはなかったように思うので「大学に進学したことがどうだったか」ということについて、当方は明確に何か答えを持ってはいない気がします。そう思うのは、もしかしたら、私が今いる環境のせいかもしれません。自分と同じように、漫画を描いて個人事業主をしている仲間が周りに何人かいますが、進学した先がどこであったかについて問われる機会が、他の業界より少ないような気がしています。 しいていうならば、本当に私的な意見ですが、大学に進学したことは、高校生のときの欲求を満たせたので良かったなと思います。当時の欲求とは、「田舎もいいけど、都会に一度出て生活してみたいな」「履歴書に『大学卒』と描けたら、なんだかかっこいいかも」でした。それらが大学に進学したことで経験できたので、とても満足しました。それから、大学に進学したことで思いがけないラッキーなことに恵まれました。それは友達ができたことです。その友達は、現在は10年来、月2回定期的に通話するくらいの友達です。高校の仲間とは進路が大きく違うことが多いので、話が合わないと感じることもありますが、大学という専門性の高い場所で出会った友達とは、その後の進路も似ているので、仕事についての悩みなどを共感してもらえて、本当にありがたいなと思っています。 ーー同じように「大学へ進学すること」「将来の不安」を抱えている方に漫画を通して伝えたいことは? この漫画はそんな大義名分があって制作したわけではないので、とくに伝えたいことはありません。しかし、ではなぜこの漫画を描いたかと言えば、漫画を描くことで、「なんか、こういうことってあるよね」みたいな気持ちを誰かに共有してほしかったんだと思います。 「自分はほっとくとすぐ怠けるな」、「自分は意欲があるタイプの人間じゃなさそう」、「特段にやりたいことが自分の中にない」みたいなことって、高校生の時点でなんとなくわかっていて、そういう自分と今後何十年とつきあっていかなければいけないという不安がありますよね。それで、何か行動をとるけど、それが他人から見たら変なことがあるよね、みたいなことです。 作中で、主人公は親に疎まれないために自分に「新聞奨学生をしながら大学に通う」というプレッシャーを自分にかけることで、怠惰に陥りがちな自分を動かそうとしています。一般的な漫画の描き方をするならば、その行動の結果、どうなったのか、彼女の成り行きまで描くことが必要だと思いました。でもそこまで描かなかったのは、読み手によって、とらえ方が変わると思ったからです。 たとえば、「主人公の行動は親の顔色をうかがって、この行動を選んだのだから、彼女の人生は良くならないだろう」とおっしゃる方もいれば、「私も怠惰に勝つために、あえて主人公と同じような行動をして生きている」という方もいると思います。 そのあたりは、「この漫画家が伝えたいことは何だろう」などは考えずに、自分が「伝わった」と思ったことを受け取っていただければいいと思っています。 ーーそのほかには、どのような漫画を描いていますか? 美大に入ったのに4年留年してしまった女の子の内面で起きていたことを探る「ゴミの中で描け」や「努力が報われる」という真実ではない言葉をなぜ大人は吐くのか?を野球少年視点でだんだん理解していく話「ラッキーボーイ」などがあります。現在は、青年誌で連載を目指して企画を練っていたり、出版社から依頼を受けて、名作小説の漫画化に作画として携わっています。 大きな目標はなく「漠然とした将来の不安」のために、自分を奮い立たせ奨学金制度で大学を目指す女子高生。そんな不安を描いたリアルな心情に「刺さる漫画」「自分も行動し始めないと危ないぞと思った」などの声が届く。 取材協力:中村環(@nakamura_tamaki)