“国会軽視”で躓いた岸政権 安保法案成立目指す安倍政権は?
安倍晋三首相が今国会での成立に執念を燃やす安保法案。訪米時に今夏成立を「国際公約」した同法案の審議時間は100時間を超す見込みで、政府与党は今月半ばにも採決にかける方針です。しかし、野党はこれに反発しています。強引な国会運営は、時に政権の足元を揺るがせることもあります。安倍首相が尊敬する祖父の岸信介首相がそうだったと、政治ジャーナリストの田中良紹氏は振り返ります。安保条約の改定を目指した岸政権の国会運営と安倍政権のこれまでの国会運営をどう見るのか、田中氏に寄稿してもらいました。
2度の選挙で勝利、盤石に見えた岸政権
安倍首相は祖父の岸信介元首相を目標にしていると言われる。しかし両者の政治家としての力量には大人と子供ほどの差がある。それほどの差はあるが、ただ躓きの原因は同じかもしれない。
まず岸信介という人物は「両岸」と呼ばれるほど左右に広い人脈を持ち、戦前の同志が戦後社会党の中心的存在となり、本人も社会党からの立候補を考えた事がある。その岸が目指したのは対米自立の日本を建設する事であった。従って吉田茂が結んだ従属的な安保条約の改定を政権の課題とする。それは社会党も賛成だった。岸は社会党の勧めでアジアを歴訪し日本の立ち位置を固めてから対米交渉に臨む。 しかし米国のダレス国務長官や軍部はこれに強く反発した。そのため岸はことさらに「反共」を強調し、一方で社会党政権誕生の可能性をほのめかして米国を脅し、安保改定への譲歩と自民党への選挙資金の提供を迫った。これを見て米国は岸を「取引の出来る男」と考え一目置いた。岸は日本が米軍基地を提供する代わりに米軍に日本防衛の義務を負わせる改定案を米国に認めさせる。 米国のメディアは岸を有能な政治家と絶賛した。一方、岸は首相就任以来2度の国政選挙に勝利して絶対安定多数の議席を得る。米国の高評価と大量議席に守られ岸政権は盤石に見えた。新安保条約の調印が行われた60年初頭の岸は得意の絶頂にある。ところがそれから半年後に岸は退陣を余儀なくされた。なぜか。そこに政治の政治たるゆえんがある。