「10失点した後ですら球場に来るのが楽しかった」今永昇太が振り返る充実のメジャー1年目と日本開幕戦への決意<SLUGGER>
日本プロ野球より短い中4日、中5日の登板間隔について、彼はよく、「1年目なんで何事も新鮮な感じがするので、あまりキツイとは思ってない」と語っていた。当然のことながら、来季=2年目は同じようには感じないだろう。 「中4日にしろ、中5日にしろ、もう先が読めることによって、やった方が良いことと、そうじゃないことを混同してしまう可能性があると思います。あくまで考え方はシンプルにして、一番は周りの人のアドバイスや意見をまず取り入れることが大事なんじゃないかなと感じています。困ったことがあったらすぐに誰かに訊いて、対策しておくことが大事」 この「考え方はシンプルにして」という部分は“投げる哲学者”などという異名を持つ彼のイメージとは少しズレる。ところが、今永がメジャーで成功した理由を問われたカウンセル監督も次のように語っている。 「彼はアメリカでの新しい生活に適応するため、なるべくシンプルに考えて対処していたようだ。それは一つの才能であり、とても大事なことなんだと思う」 監督の誉め言葉を聞いた今永はしかし、「メチャクチャ複雑に考えてますよ」と笑う。 「シンプルに考えるというか、アメリカで得た技術があるとするならば、分かり易い言葉で言うと、それは開き直りだと思っています。それが自分の中では合ってるし、上手くなったと思うので、それがシンプルにつながったと思うんです」 横浜時代はあまり開き直れなかったのか? と問うと、彼は真顔でこう言った。 「日本の時は、反省の仕方が下手くそだったんです。責任と......相撲で言うと『ちゃんとぶつかった』みたいな。それはもしかしたら、自分の良いところなのかも知れないんですけど、責任とぶつかりすぎて、何かこう、自分自身が逃げ場を失っていた部分があった。こっちのメンタルコーチとよく話しますけど、責任の向き合い方とか、そういうスキルが凄く上手くなったんだと思う」 現在進行形の問題は、その場でいろいろ考えて、負の連鎖に陥るより、がっつり過去形になってから考えた方が客観的に捉えることが出来るものだ。そう言えば、いつだったかの試合で苦しんだ後、彼は「マウンド上で反省せずに、登板が終わってから反省すればいい」と話している。 「こっちに来た以上は、アメリカ人になるってのがベストだと思っていて、僕はヒマワリの種も食べますし、コーチと話していても、ガムを噛みます。こっちって、ミーティングの時にご飯食べてても、何ら問題はない。日本で同じことやってたら怒られるでしょうけど、『郷に入れば郷に従え』という言葉があるし、そうすることによって、実はすごく情報が入ってくるんです」 「簡単なことですよ。『昨日のフットボール見た?』とかね。でも、キャンプの時には絶対に話さなかった野手の人が僕にそういう風に話しかけてきたりとか、キャンプの時に隣でホットタブに浸かっていても話さなかった野手が、僕の話を聞こうとしてくれたりするようになる」 今永は言った。「結局は、自分らしくあるのが一番だな、と思いました」。 「僕がここで話してることは、本当かもしれないし、嘘かもしれない。本当はもう日本に帰りたいとか思ってるかもしれない......思ってないですけど(笑)。でも、人から見える自分と、自分が自分らしくある姿っていうのは、分けてもいいんじゃないかと思うんです。今までは人から見られる姿を自分の内側を一緒にしなきゃいけないっていうのがあったんですけど、自分らしければそれでいいんだな、と。そういうメンタルの持ち方って、本当に勉強になりましたし、上手くなった気がします」 分かったようで、分からんような、哲学者の真骨頂である。
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