古今東西 かしゆか商店【京扇子】
日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回訪ねたのは、約300年続く京扇子の老舗〈白竹堂〉。和紙と竹骨で作る古都のしなやかな手仕事に出会いました。 【フォトギャラリーを見る】 品よく手軽に涼を取ることができる日本の扇子。中でも扇面の美しさに惹かれるのが “京扇子” です。 「平安時代前期の貴族たちは、木簡という木札に言葉を書いて贈り合いました。一説によると、その木札を束ねたのが扇子の起源。つまり想いを伝えるものだったのですね。今のような竹骨と紙の紙扇が登場したのは室町時代です」
と教えてくださったのは、創業300年を超える京扇子の老舗〈白竹堂〉10代目の山岡駒蔵さん。京都市内の本店には、季節の草花を描いた和紙の扇子から西陣織やレースを使った生地扇子まで、さまざまな種類が並んでいます。 「京扇子作りは分業制。竹骨を作る、扇面(紙)に絵付けする、蛇腹に折る、紙と骨を組み立てる……と88の工程があるのが特徴です」
この日は隣接する工房で、和紙の扇面に竹骨を差して仕上げる工程を見学しました。まず意外だったのは、どんなに薄く軽やかな扇面も、3枚の和紙をぴったりと貼り合わせて作られていること。 「3層になった紙を蛇腹に折る際、真ん中の芯紙だけをさらに薄く裂くようにして、竹骨を差す細い通り道を開けておきます」
と山岡さん。ここからがすごいんです。扇面の縁にフッと息を吹き込んで通り道を広げ、水糊を引いた竹骨を一本ずつ差し込みます。厚さ1mmにも満たない極細の骨が、するする狭い隙間に収まっていく。竹骨の数が多いほどあおいだ時の風がしなやかになりますが、その分、高い技術が必要です。さらに、扇子の両サイドを押さえる2本の親骨を熱し、内側へわずかに湾曲させる “親ため” の手わざも重要。
「扇子は閉じた時にパチンと音が鳴りますよね。これは3枚合わせの紙や親ための技法によるもの。日本の扇子だけの特徴です」 さて、最後に教わったのは扇面の美しさの秘密です。日本には扇形の紙をキャンバスにして絵や文様を描く “扇絵” というジャンルがあって、琳派で知られる17世紀の絵師・俵屋宗達も、もともとは扇絵を得意とした職人だったとか。〈白竹堂〉にも、明治以降に京都で活躍した画家たちの扇面があり、貴重な原画も多く残っています。