日本の現代芸術を世界へ。SCOTサマー・シーズン2024にて瀬戸山美咲、堀川炎、福永武史、EMMAらの気鋭の作品を上演中
富山県南砺市利賀村では現在、国際演劇祭「SCOT サマー・シーズン 2024」が開催中だ。会場となる利賀芸術公園の劇場では、鈴木忠志主宰のSCOTの作品とともに、今年3年目となる「桃太郎の会」に参加した瀬戸山美咲、堀川炎、福永武史、EMMAら気鋭の演出家たちの作品が上演され、演劇愛好者、関係者たちの話題を集めている。 【全ての写真】「桃太郎の会」に参加した瀬戸山美咲、堀川炎、福永武史、EMMA 首都圏から離れた地域で、次世代を担う演出家たちとともに創作を創造する──。「桃太郎の会」は、鈴木忠志の提唱に、静岡県静岡市の宮城聰、兵庫県豊岡市の平田オリザ、鳥取県鳥取市の中島諒人ら、各地でその土地の特色を活かした国際演劇祭を手がける演劇人たちが賛同し、2022年にスタート。それぞれが1名ずつ次世代の演出家を推薦し、世界にも類を見ない劇場群と創作環境を誇る利賀芸術公園での初演を目指す。利賀村をはじめとする4つの地は、トップレベルの舞台芸術を創作するための人材や施設、豊かな創作環境を有す。「桃太郎の会」は、これら日本を代表する創作4拠点がネットワークを組み、次世代を担う演出家の活躍の場を世界に発信するという意欲的な取り組みといえる。 今年取り上げられたのは、『野火』と『象』。いずれも、戦争体験に真正面から向き合う作品だ。 大岡昇平の小説『野火』は、太平洋戦争末期、フィリピンのある島で生き延びてしまった一等兵が、敵におびえながらジャングルを彷徨い続けた体験を描く。『象』は、かつて被曝によるケロイドをさらして喝采を浴びていた男の物語。悲惨な戦争によって不幸な人生を生きることを強いられた人間像を通して、戦争の深層を抉り出す別役実の歴史的傑作だ。 『野火』に取り組んだのは、ふたりの演出家。 2001年よりミナモザを主宰し、数々の演劇賞を受賞、現在は22年より日本劇作家協会会長を務める瀬戸山美咲(芸術監督:鈴木忠志、制作:SCOT[富山])。 もうひとりは、世田谷シルク主宰、近年は「野外劇場」「児童演劇」「国際共同制作」にも目を向ける堀川炎(芸術監督:平田オリザ、制作:アゴラ企画[兵庫])。 また『象』を演出したのは、沖縄で演劇活動を続ける福永武史(芸術監督:中島諒人、制作:鳥の劇場[鳥取])と、新潟・富山・兵庫・京都・広島・島根・香川で公演や滞在制作を行ってきたEMMA(旧・豊永純子)(芸術監督:宮城聰、制作:SPAC-静岡県舞台芸術センター[静岡])だ。 このほか、特別参加作品として、演出家振付家の金森穣による新作ダンス『めまい』の上演も行われた。 最終日の9月8日(日)には、瀬戸山美咲、堀川炎、福永武史、EMMAらが、今回の作品の創造過程について語り合う「4人の演出家によるトーク」も予定。次世代を担う演出家が、戦争体験を題材とした作品に、どのような思いで向き合い、どのように創造していったのか、じっくりと語り合う場となるだろう。 利賀での上演ののち、9月中に実施される兵庫県豊岡市の「豊岡演劇祭」では堀川炎による『野火』が、同じく9月実施の鳥取市鹿野町での「鳥の演劇祭」で福永武史演出の『象』が上演される。また12月にはSPAC-静岡県舞台芸術センターにてEMMA演出による『象』が上演されるほか、再び「4人の演出家によるトーク」が実施される。 4地域が連携し、日本の豊かな風土が育む現代舞台芸術を世界に発信する、演劇の未来を見据えたプロジェクト。今後の展開に期待が寄せられる。