ラファエロの名画「バロンチの祭壇画」をAIが分析。保存修復に役立つかも
盛期ルネサンスを代表する16世紀初頭の芸術家、ラファエロ・サンティ。 超有名な芸術家であるラファエロが生み出した絵画「バロンチの祭壇画」が、X線スキャンとAIによる分析にかけられました。これにより、この作品に使われた色の構成や化学物質が明らかになりました。 【全画像をみる】ラファエロの名画「バロンチの祭壇画」をAIが分析。保存修復に役立つかも AIを活用したX線スキャンとの組み合わせの分析方法が、今後の修復や保存に役立つかもしれません。
失われた名画
今回研究に使用されたラファエロの芸術作品は「バロンチの祭壇画」と呼ばれるもので、ラファエロの最初期の作品として重要な絵画です。この祭壇画は、父なる神がトレンティーノの聖ニコラウスの戴冠式を行なう様子、聖母マリアや悪魔の姿が描かれたもので、1501年に完成しました。 しかし、18世紀に起こった地震により甚大な被害を受け、バラバラに。現在ではいくつかの断片と下絵が残るのみとなってしまいました。 先日Science Advances誌に掲載された最新の研究では、この「バロンチの祭壇画」のなかで残存している父なる神と聖母マリアが描かれた2枚の断片の分析が行なわれました。 研究チームがまず行なったのはマクロ蛍光X線(MA-XRF)によるスキャンでした。これにより取得したデータから、絵画に使用された57種類の顔料(絵の具として使われた材料)と化学物質の50万以上の合成スペクトルを作成。それらを合成データセットとしてニューラルネットワークのトレーニングに使用しました。 言い換えると、研究チームは「目に見える色と構成する化学物質を細かく調べるように、AIモデルに学習させた」ということです。
分析からわかった化学物質
XRFデータから、AIは500年以上前にラファエロが2枚の断片に塗ったものの化学元素を識別しました。絵画の下地の白は鉛がベースとして使用されたこと、人物の肌の色調には水銀ベースの朱色の顔料が含まれていたことなどがわかりました。 また、大きいほうの断片の父なる神を囲む緑のカーテンは銅をベースにしていたと考えられるとのこと。しかし、アメリカ科学振興協会によれば、カーテンは化学的にカリウムとも関連があり、構成する塗料はアズライトのような鉱物、あるいは黄色のレーキ顔料を混ぜた樹脂酸銅から作られたとしています。 今回のMA-XRFスキャンとAIによる分析の成果はさらにあるといいます。研究チームは論文に以下のように述べています。 MA-XRFスキャンにより、この2枚のパネルには、現在の状態では部分的に隠されている金箔のモチーフがあったことも明らかになりました。 また、時代に合わない顔料による長期間の修復作業の痕跡も検出されました。 つまり、今回の分析により、ラファエロが最終的に採用しなかったモチーフの痕跡も発見できたということです。さらに、その後に行なわれた修復作業についても詳細がわかったわけですね。