ラファエロの名画「バロンチの祭壇画」をAIが分析。保存修復に役立つかも
現在はルーブル美術館に収蔵
さて、改めてこのバロンチの祭壇画についておさらいをすると、1501年から300年近くイタリアのウンブリア州に教会に置かれていました。 しかし、1789年の大きな地震により大部分が破損してしまいます。残った断片はその後ローマ教皇ピウス6世の手に渡り一度ローマへ。さらにナポレオンに押収されたことでナポレオン美術館(現在のルーブル美術館)に収蔵されました。 今回の2枚の断片はナポリに運ばれ、現在もそこで保存されています。バロンチの祭壇画の詳しい歴史はThe Frick Collectionのウェブサイトで読むことができます。さらに、後に作成された祭壇画の全体像のコラージュも見られますよ。 さて、今回の研究では合成データセットでモデルをトレーニングしたことで、より高速で正確な分析が可能になったようです。 これは、ラファエロが絵画に複数の顔料を使用した部分において、ぼけを取り除く手法として用いられるデコンボリューションでの画像処理方法より精度の高い分析ができたとのこと。従来のデコンボリューション法では、さまざまな顔料や化学物質が混在した領域でぼけやにじみといったノイズが残り、適切な分析が困難であるからだといいます。
美術品の「修復」失敗を防ぐためにも
研究チームは今回の合成データによるモデルが、MA-XRFスキャンによって生成した要素をより適切に分析できたこと踏まえ、「従来のデコンボリューション法において一般的に伴う制限をうまく克服できる」と述べています。 そして将来的には、こうした研究や技術が貴重な芸術作品の保存に役立つだけでなく、ほかの方法では見つけにくい隠されたモチーフの特定なども容易にすると考えられるのです。 今回のAIを用いた分析において最も役に立ったのは、AIが人間の研究者たちが行なう作業をより高速に行なったことにあるといえそうです。ヒトが研究を指導しながら、細かい作業をAIが行なう、という構造であったことも覚えておきたいですね。
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