松井監督解任と西武球団の大罪【白球つれづれ】
◆ 白球つれづれ2024・第18回 西武ライオンズが26日、松井稼頭央監督の休養と、渡辺久信GMの後任監督代行就任を発表した。渡辺監督代行は11年ぶりの現場復帰で28日の交流戦(対中日)から指揮を執る。 違和感だらけの退団劇だった。 オリックス戦に勝利。泥沼の8連敗から脱し、ようやく連勝した直後に松井監督と球団の話し合いの場は持たれたと言う。席上、球団側は成績不振を理由に休養を申し渡したとされる。 この時点で15勝30敗。首位を行くソフトバンクから15.5ゲーム差離され、今月19日には早くも自力Vの可能性も消滅している。不成績の責任を指揮官が執らされるのだから、事実上の解任である。 しかし、これだけ重要な人事を球団として正式な場を設けて発表するわけでない。松井監督は「自分が結果を出せていなかったので受け入れている。ファンの方の期待に応えられなかったのは申し訳ない」としながらも、突如の休養通告は「意識していなかった」とし、選手たちには「もっと一緒にやりたかった」と無念の表情を浮かべている。 一方で、会見に臨んだ渡辺GM兼監督代行の表情にも苦悩の色がにじむ。 「松井監督だけの責任ではない。私もチーム全体を見る立場として非常に申し訳ない。責任も感じている」と語ったうえで「私のプロ野球人生を賭けて挑んでいきたい」とチームの巻き返しを誓った。 本来なら、監督と同時に不成績の責任を問われる編成部門のトップが、後任に就くのはおかしいが、球団幹部が話し合った結果は渡辺監督代行にすべてを託すしかないというもの。 不成績で“詰め腹”を切らされた指揮官と、その後始末に駆り出されたGM。何とも違和感だらけの人事発表が名門球団の現状と混乱を浮き彫りにしている。 ◆ 西武が凋落した原因とは 西武の凋落は今に始まったことではない。最後のリーグ優勝は辻発彦監督時代の19年。最近では下位に沈むことも珍しくない。 低迷の因は多岐にわたるが、特に指摘されるのがFAをはじめとした人材の流失と、それをカバーすべきトレードや新外国人獲得の失敗である。 18年の浅村栄斗(楽天)から始まり、一昨年に森友哉(オリックス)に、昨年オフは山川穂高選手がソフトバンクにFA移籍している。秋山翔吾や菊池雄星選手はメジャー挑戦でユニホームを脱いでいった。 女性問題で無期限謹慎処分を課していた山川を巡っては、松井監督らの現場組は残留を望んだが、球団側はこれを拒否。ひとまず形式上は残留交渉を行ったが、ソフトバンクの用意した提示額とは3億円以上の開きがあったとある関係者は証言する。 これに対して、補強面ではトレード、現役ドラフトや新外国人獲得にことごとく失敗。ドラフトで隅田知一郎、武内夏暉両即戦力左腕の獲得こそ、成功したが野手では大砲不在が顕著で、今季もメジャー114本塁打のジェスス・アギラー選手らに期待を託すが、現在は再調整のため、ファームで汗を流している。 日本ハムがFAで山崎福也投手、トレードで田中正義投手やアリエル・マルティネス選手らを獲得して、上位躍進の要因となっているのとは対照的な現状だ。 さらにこの先も球団を悩ます懸案事項がある。高橋光成、平良海馬両エースらが早くから海外挑戦とポスティングを球団に要求しているのだ。 打線はともかく、ようやく投手王国の可能性が見えてきたところに、また人材流失の危機が迫っている。渡辺監督代行は指揮を取りながら、GMとして懸案事項にも取り組まなければならないのだから、まさに自身の野球生命を賭けた残り試合となる。 黄金期の西武には、根本陸夫球団管理部長を筆頭に5年後、10年後を見据えた青写真を描ける人材と、堤義明前オーナーらの圧倒的な資金力があった。 だが、西武ホールディングに組織を変えた今は、潤沢な資金とはいかず、不祥事にはコンプライアンス第一主義が徹底される。 6月21日には同社の株主総会が予定されている。昨年は高橋投手らの”ロン毛”が話題を呼んだが、今年はもっと厳しい声が球団に集まるだろう。 今、ファンや株主が求めているのは、小手先だけのチーム改造ではない。球団はもちろん、西武グループを挙げた大手術が望まれている。 文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
BASEBALL KING