植田日銀総裁、利上げ判断に「時間的余裕」は使わず-金融政策維持
植田総裁は、追加利上げの重要な判断材料となる賃金・物価情勢に関しては、毎月勤労統計を踏まえて、一般労働者の所定内給与の伸びが「2%のインフレ目標と整合的な範囲に入ってきている」と指摘。10月の東京都区部の消費者物価指数などから、賃金のサービス価格への転嫁の動きが「広がっている」と述べた。
米経済については「少し霧が晴れつつある」としながらも、これまでの利上げの経済・物価への影響など「不透明な部分がまだなお大きいと判断しており、その動向を注視していく必要がある」と語った。
市場では円相場が一時1ドル=151円台後半まで上昇。決定会合で2025年度の物価見通しの上振れリスクの記述を維持したことを受けて上昇し、総裁会見を受けて上げ幅を拡大した。長期国債先物相場は夜間取引で下落。シンガポール市場の日経平均先物も下落している。
上振れリスク
新たな展望リポートの消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の上昇率見通しは、2025年度を前回の2.1%から1.9%に下方修正したものの、26年度まで2%程度で推移するとの従来の想定から大きな変化はなかった。今後の政策展開を探る上で注目されたリスクバランスは、前回リポートで指摘した「上振れリスクの方が大きい」との表現を24年度はなくす一方、25年度は維持した。
金融政策運営は、経済・物価見通しが実現していけば「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」方針を据え置いた。その上で、米国をはじめとする海外経済や市場動向を十分注視し、「わが国の経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響を見極める必要がある」とした。
大和証券の末広徹チーフエコノミストは、日銀としては「全体的には今後正常化を進めていくのにオントラック(順調)だという説明になると思う」と指摘。海外経済の不透明性から利上げを見送ったとの見方を示した上で、「円安がさらに進めば、12月にも利上げをするだろうし、今回の展望リポートはその可能性を否定するものではなかった」と述べた。