パートナーの反対、結婚への疑問、働き詰めの毎日──産まない女性の「本音」 #性のギモン
それについて松本さんは、「会社への忠誠心を示すことが求められるんですよね」と言う。 働き続けることを求められているのに、子どもを産めと言われる。2人は、必要なのは子育て給付より「休み」だと言う。 「通勤時間も労働時間も長い日本人が暇なのは大学生くらいまで。働きすぎなので、性別や既婚・独身を問わず誰もが1年ぐらいの休暇が取れるといい」(鈴井さん) 「それなら、独身の人も一度立ち止まることができる。みんなが休めれば、誰も休むことに罪悪感を持たなくて済むし、誰も責めなくなる」(松本さん)
「忙しすぎる」という点には、坂元さんもうなずく。そして「異次元の少子化対策」のズレをこう指摘する。 「多くの人に余裕がなく、低所得層ほど結婚していない。だから少子化対策は、短期的には既存の夫婦から生まれる子どもの数を増やし、長期的には若い世代の労働環境の改善や所得の向上に取り組んでいくことが必要だと思います。まず、少子化対策と子育て支援策は異なる点を理解することが大切です。今、少子化対策として打ち出されているものの大半は子育て支援でしかなく、データに基づかず国民受けしやすいものになっていると感じます」 これまで話を聞いてきた4人は全員、ロスジェネ世代だ。 「ロスジェネ世代は、いろいろな制度の狭間でいちばん割を食い続けていると思います。私が『若い世代』と言ったのは25歳から35歳くらいまで。少子化対策を手厚くすることで世代間格差を生まないようにすることも大事です」(坂元さん)
子どもを産ませようとする圧力を危惧
冒頭で話を聞いた横山さんは、産まない者の肩身の狭さを語っていた。富山大学非常勤講師で社会学者の斉藤正美さんは、政府が進める「異次元の少子化対策」について、「人権を無視している」と言う。 「さまざまな事情で子どもを持つことができない人がいます。そうした人たちを無視した『少子化』という言葉には、子どもを産ませようという圧力を感じます。産む、産まないは繊細で機微に触れることですが、そこに政府が平気でズカズカ入ってくることを非常に危惧しています。例えば今年3月に自民党の衛藤晟一少子化対策調査会長は、地方に帰って結婚や出産をしたら奨学金の返済を免除するという案を出しました。これはネットなどでたいへん批判されました」 同じ人口問題を考えるにあたっても、国連人口基金「世界人口白書2023」にはこう書いてあると、斉藤さんは指摘する。 「『問題は、人口が多すぎるのか、または少なすぎるのかではありません。問うべきは、望む数の子どもを希望する間隔で産むことができるという基本的人権を、すべての人が行使できているかどうかです』としています。個人の人権をいかに守るか、守らせるかということが書いてあります。根本の考え方が違います」 またお金の動きも気になっている。 「こども家庭庁の令和5年度当初予算案を見てみると、『結婚・妊娠・出産・子育てに夢や希望を感じられる社会の実現、少子化の克服』の項にある、『地域少子化対策重点推進交付金』は100億円(令和4年度補正予算を含む)。これは地方自治体に割り振られる予算です。これまでせいぜい40億円だったのに、100億円にまで膨れ上がっている。2013年度にこの前身となる交付金が創設され、自治体の婚活事業などに使われてきました。しかし自治体は結局その事業を民間の結婚情報産業に委託して、そこにお金が回りました。潤ったのは婚活業界だった。そうした実態を10年見てきました。同じようにならないと言えるでしょうか」 自治体の婚活事業では、今まで聞いてきた女性たちの「産まない、産めない」理由は解決しない。児童手当の拡充方針などは、子育ての助けにはなるのかもしれない。しかし一方で、2022年度の所得に占める税金や社会保険料の負担の割合である国民負担率は47.5%にも上っている。 「子育てをしている人もそうでない人も、やっと納税しているのが現状です。そういう人たちのお金を吸い取っているわけです。それが適正に使われないという理不尽が続いています」 --- 「#性のギモン」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。人間関係やからだの悩みなど、さまざまな視点から「性」について、そして性教育について取り上げます。子どもから大人まで関わる性のこと、一緒に考えてみませんか。