パートナーの反対、結婚への疑問、働き詰めの毎日──産まない女性の「本音」 #性のギモン
仕事でクタクタの夫。「それ以上言えなかった」
既婚女性にも産まなかった理由を尋ねた。現在49歳の山田ミスズさん(仮名)はフリーランス。不器用な自分に忙しい仕事と家庭を両立させることはできないと思い、仕事を優先してきた。 40代に入って初めて、もしかしたら自分も両立できるかもしれないと思えた。気持ちに余裕が生まれてある程度、人に頼れるようになったからだ。今の夫に出会ったことも大きい。44歳で結婚した。結婚後すぐに2人で検診を受けて、子どもを持つのに問題がないと分かった。彼は「子どもはどっちでもいい」と言った。彼女はそれを「もしできなかったとしても2人で楽しんでいこう」という意味だと解釈した。 夫は子どもが好きだ。しかし子どものことを相談すると、彼は思った以上に子どもを持つことに慎重で消極的だった。 「公務員の夫は日本の環境や将来を悲観しています。私は、夫の不安が理解できますが腑に落ちてはいません。何度か話してみましたが、朝5時に起きて仕事に出かけクタクタになって帰る夫に、子どものことをそれ以上は言えませんでした」 2人の女性のパートナーは、反対の理由が共通している。女性が子どもを産まないことには、当然、相手の判断が関わる。どちらのパートナーも、いわゆるロスジェネ世代。彼らが経験したこの30年の停滞を考えれば、国の先行きに漠然とした不安を抱えてしまうのも当然なのかもしれない。
誤解されている「女性が産まない理由」
50歳時点で子どもがいない日本の女性の割合は、1970年生まれで27%、4人に1人だ(OECD Family Databaseより)。しかし、夫婦の持つ子どもの数は1970年代の2.20人から2000年代初めまでほぼ横ばいで推移し、2010年代もそこから少し下がった1.94人、2021年には1.90人の微減にとどまる。 つまり「子どもを持たない人が増えているのには未婚率の上昇が関係している」。こう指摘するのは、東京財団政策研究所の主任研究員で医師の坂元晴香さん(40)だ。50歳時の未婚割合は、1980年には男性2.60%、女性4.45%だったが、2020年には男性28.25%、女性17.81%にまで増加している(国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」)。 「『出生動向基本調査』で『生涯のどこかで結婚する意思はありますか』と聞くと、2021年でも男女ともに約80%の人たちが『ある』と答えます。でも『交際に興味がありますか』と聞くと18~39歳の半数が興味なし。『交際への興味』『性交渉経験』『結婚しているか』『子どもを持つ割合』などは、男性の場合、収入や雇用形態との相関が出ているので経済的な理由が大きい」(坂元さん) 女性の場合はどうなのか。女性が高学歴になり社会進出したことが少子化の原因と言われたこともあったが、それは「データに基づかない誤解」という。 「女性は収入の最も低い層と最も高い層で結婚しています。もともと一定の収入があっても結婚や出産で仕事を辞めるケースがあるので、それが『最も低い層』にカウントされている場合があります。育児中で一時的に収入が低くなっている女性もいるため解釈が難しいですが、そうした低所得層を除くと、女性も所得が上がるほど結婚する割合が増える傾向は見て取れます。また昔は低学歴の女性ほど子どもを持っていましたが、今は学歴と子どもの有無は関係がありません」(坂元さん)