林風肖×山下RIRI、原口沙輔、META TAXIの“制作の裏側”に迫る 『NIGHT HIKE』セッションレポート
2024年12月14日、ナイトクラブ・渋谷WOMBにて、音楽、イラスト、映像が融合するミュージックアートフェス『NIGHT HIKE』が開催された。本イベントは、クラブイベントとしての側面を持ちながらも、気鋭クリエイターたちの作品制作の裏側に迫るセッションが用意されているのが大きな特徴で、いわば、作品誕生の過程に焦点を当てた、クリエイター視点のイベントといえるだろう。 【画像】意味深な“予告”を残した原口沙輔 1階ラウンジではライブドローイング、トークセッション、楽曲解説&トラックメイキング、2階メインフロアと4階サブフロアでは一流DJやボカロPによるDJ/VJパフォーマンスが展開される。全身で音の銃弾を浴びるも良し、クリエイターの制作秘話に耳を傾けるも良し。コンビニ感覚で気軽に立ち寄れる、それが『NIGHT HIKE』の醍醐味だ。今回、筆者は3つのセッションを中心にイベントを見て回った。 ■林風肖×山下RIRIによる『クライマキナ/CRYMACHINA』『神椿市協奏中。』の制作秘話 時刻は15時45分、1階のラウンジではゲーム『クライマキナ/CRYMACHINA』『神椿市協奏中。』の制作秘話が語られていた。登壇者は、両作品のプロデュース・ディレクションを担当した林風肖氏と、映像作家 兼 アニメーターの山下RIRI氏。 普段は一人で黙々と作業を進めるという山下RIRI氏は、林風肖氏から多忙ぶりを尋ねられると、「今日も寝ていない」と苦笑しながら一言。身を削るような制作へのパッションは、クリエイターの鑑そのもの。スクリーンには、完成した映像作品に続いて動画コンテが流れ、リズムゲーム『神椿市協奏中。』の制作話へ。山下RIRI氏は、慣れない背景担当の選定にも奔走したという。 特に興味深かったのは、崩壊した世界で可不が踊るパントマイム風の動きについて。林風肖氏からの質問に対し、山下RIRI氏は振付師に依頼したとの貴重な裏話を披露。近年のTikTokダンスブームの影響もあり、映像作品に振付師が参加するケースも増えているそうだ。短期間で山下RIRI氏への依頼を次々と繰り出してきたという林風肖氏だが、そのスタンスは「本人に任せる」に尽き、重要なのは合ったクリエイターにお願いをすることと始めのすり合わせにあるとも語った。この懐の深さが、わずか数ヶ月の間で制作が終わったというスムーズな制作進行の鍵になった。 トーク終盤には、サプライズゲストとして、『クライマキナ/CRYMACHINA』OP映像の楽曲制作を担当したSakuzyo氏も登壇。このパートでは、英語とプログラミング言語を使った歌詞制作の裏側が明かされたが、Sakuzyo氏自身も林風肖氏も苦手分野だったことから、作詞はASPRGuS氏に依頼した経緯がある。一つの作品が、様々な才能の結集によって生み出されていることを改めて実感させられるエピソードだった。 最後に、制作においては「しっかりと時間を取って、とにかく手を動かすことが重要」と述べた山下RIRI氏。質疑応答で彼女に「モチベーションを維持する方法」について尋ねると、作品作りにおいては「常に何かが足りないと感じている」と話してくれた。常に反省と修正を繰り返すというストイックなスタンスだ。制作のスピード感と作品から溢れる輝きが、その言葉に説得力を与えていた。 ■「人マニア」の貴重な制作画面を公開した原口沙輔 1時間ほどメインフロア・サブフロアで流れる音楽を楽しみつつ、時刻は17時に。2階と4階から音のシャワーを浴びた人々が、1階のラウンジで開催される『NIGHT HIKE×Ableton presents 原口沙輔氏のMaking Sense of Music』へと殺到する。その香ばしい匂いに誘われて、ラウンジはあっという間に満員御礼。司会を務めたのは、Ableton認定トレーナーの鶴田氏。 原口氏は普段使用しているAbleton『Live』のDAW画面をスクリーンに映し出しながら、作曲においては「展開の繋ぎ目が難しい」と漏らす。たとえば「人マニア」はドラムフィルを効果音で代用したという。また、その後の展開ではキック等の音を極力変えないことも重要なポイントとして話してくれた。 原口氏のカオティックな音の洪水のなかには、揺るぎない“らしさ”が存在するが、そうした繊細な工夫が、一貫した原口氏らしいサウンドを保つファクターになっていたのだ。メロディー先行・コード後付けの作曲スタイルや、音楽理論の習得方法といった貴重な知識も惜しみなく披露された。 クリエイティブの壁にぶつかった時の対処法も興味深い。「やりたいこととは全く関係のない別の音を沢山作ってみるんです。そして、それらを後から足したり引いたりして作っていく」というアプローチは、まさに発想の転換。行き詰まった時こそ、動き続けること。主観に陥りがちな制作過程において、客観的な視点を持つことの重要性を原口氏は語る。この二つの心得は、音楽に限らず、あらゆる創作活動に通じる普遍的な真理だ。 それから、原口氏の話を聞いていると、倍音を好み、温かみのあるサウンドを追求していることがわかる。一見、無機質にも聴こえるハイパーポップだが、その奥に求める温もりこそが多くの人々を惹きつける理由の一つになっているのではないだろうか。そしてセッションの最後には、「人マニア」でサンプリングされている音の話から、次回作への布石とも取れる発言が。その瞬間、熱はピークに達した。 ■葛飾出身×m7kenjiが語る、META TAXIでの映像制作 その後、19時半からはまた別のセッションがスタート。2階のDJブースからは、先ほど『Making Sense of Music』を終えた原口氏のプレイする心地よいビートがリアルタイムで響き渡る。そんななか、1階のラウンジでは、芸人やアーティストがアバター姿で登場するYouTubeチャンネル「META TAXI」と NIGHT HIKEの特別トークセッションがスタート。映像作家・葛飾出身氏とm7kenji氏が、META TAXIのプロデューサー・佐川氏と共に、本チャンネル向けに制作した作品について、その過程を振り返った。 デジタルな時代に、レトロでポップな世界観でユニークな作品を生み出す二人。その存在感は、2階と4階から漏れてくる音をかき消すほどに力強い。極限まで効率化を図るm7kenji氏と、マイペースに作業を進める葛飾出身氏。使用する動画制作ソフトから絵コンテの描き方まで制作に対するアプローチが全く対照的な二人だったが、古き良きものへの愛着は共通事項。互いの制作手法の違いに熱心に耳を傾ける二人の姿が印象的だった。 葛飾出身氏がMETA TAXIに提供した作品は、黒柳徹子が司会を務めるテレビ番組『徹子の部屋』をオマージュした昭和風のレトロアニメーション。音楽制作も手掛ける鬼才だが、あの独特な少女の声は、彼自身の声をDAWで加工したものだったというから驚きだ。さらに、二人の制作部屋も公開。m7kenji氏は制作中、常にフィリピンのお店の24時間ライブ配信を傍らに置いているという。彼が、温かいピクセルアートを生み出す理由……それは、孤独になりがちな創作活動に、「人の営み」を添えていることにあるのだろう。人間らしさを保つことは、同時に、創作活動の継続にもつながっていた。 今回レポートした3つのセッションはほんの一部。『NIGHT HIKE』は、クリエイターの制作過程やスタイル、哲学に触れることができる、またとない刺激的な機会となった。「手を動かし続けること」「人間味を求めること」。こうした行動は、クリエイターがクリエイターであり続けるための必要条件といえる。若手、ベテラン関係なく、いい作品を生み出す秘訣は、クリエイターとしての在り方と真摯に向き合うことに直結するのかもしれない。来年、『NIGHT HIKE』は開催会場を拡大すると発表。才能溢れるクリエイターたちの出番に期待しよう。
小町碧音