「手仕事で組み立てた唯一無二の存在」...《名車を知り尽くしたフォトグラファー》が憧れを禁じ得ない「特別なクルマ」の正体
集大成の写真集
「GTRのような走るうえでのスペックが各世代で最先端だとか、ストリートで自分好みに手を入れられる車も魅力的ですが、日本車で言えばトヨタの2000GTのような優美な雰囲気を持った、デザインそのものがダイレクトに訴えてくるような車にどうしても惹かれます」 今年11月には秦氏の秘蔵データから集めた『ENGINE ERA』をDIAMOND HEADSから発売。写真集には珠玉の114台をセレクトし、総ページは300ページ以上にものぼる。車を知り尽くした秦氏の集大成とも呼べる作品だ。 そんな世界のスポーツカー、ラグジュアリーカーと並行して秦氏が撮影を続けているのが日本のデコトラだった。出会いは18年ほど前まで遡る。 「偶然、デコトラを背景にしたファッション撮影をしようと思っていて、茨城に住んでいらっしゃるオーナーさんと知り合ったのがきっかけでした。私が幼少の頃、父親がバス会社のメカニックをしていて、仕事着はオイルの染み付いた白いつなぎ。なので子供の頃は整備場に忍び込んではカッコいいと感じた燻銀色のボルトを拾い集めていました。 高校の頃は国内をヒッチハイクで回って、その時には長距離トラックの運転手さんにも大変お世話になった。そういう影響がどれほどあったのかは分かりませんが、撮影でたまたまデコトラを眺めたときは強烈な懐かしさを感じましたね。でも同時に『ここまで進化しているのか』という衝撃もありました」 派手な見た目を重視し、走りやすさと逆行した美しさをまとうデコトラ。その魅力についてこう語る。
「デコトラは唯一無二」
「デコトラはそれこそ手仕事で組み立てた物体で、唯一無二です。仕事の相棒であり、オーナー自身を主張する存在でもある。タイでもデコトラが走っていますし、スリランカではデコトラに似たトラックが走っているんですが、仏壇に近い装飾が施されています。でも、考えてみると日本のデコトラもお神輿に似ているんですよね。オーナーの精神や心意気を背負っているからこそ、息をしているような感覚を覚えるんだと思います」 だが、そのデコトラも時代とともに年々減少傾向にあるという。 「デコトラも絶対数が減ってきています。オーナーさんの高齢化もありますが、車自体の老朽化も大きな要因の一つです。修理しようにも部品がなくなっていたりして、現実的に走ることが難しくなっている。毎年、埼玉県では年の瀬に全国のデコトラが集まるイベントが開催されていて、多い時には500台が集まっていましたが、それも徐々に数が減っている。 その反面、新しい20代から30代のデコトラ乗りも多くはありませんが、増えてはいるのは確かです。デコチャリに乗ってイベントに参加する少年たちも見かけます」