妻子殺害後、不倫相手に「大好き大好き」 取り調べでは「娘を殺したのは妻」 遺族「極刑にしてほしい」【新潟】
2021年に新潟市で起きた『妻子殺害事件』の裁判員裁判が、10月29日から新潟地裁で開かれている。妻と当時1歳の娘を殺害した罪などに問われている男。 【妻子殺害事件初公判】殺人認めるも、殺人未遂・殺人予備は否認:検察「身勝手極まりない動機」【新潟】スーパーJにいがた10月29日OA これまでの公判では、被告が2人を殺害した後、妻を自殺に見せかける偽装工作をしていたことなどが明らかになり、被告の不倫相手は証言台で、逮捕後も被告から「1分1秒でも早く○○の元へ帰る」などとつづった手紙が送られてきていたことを明らかにした。 11月6日から被告人質問が始まり、被告が犯行の一部始終を語った。 第3回公判から8日の第8回公判までの詳細を振り返る。 ──────────────────────────────────────── 新潟市南区の元看護師・渡辺健被告(31)。 2021年11月、自宅で妻・春香さん(当時29歳)と長女・純ちゃん(当時1歳)の首をロープで絞め殺害した罪に問われている。 また、事件の7カ月前に飲料水に睡眠薬を混ぜ、春香さんに飲ませながら純ちゃんと車で出かけるのを止めず、交通事故を起こさせて2人を殺害しようとしたとして、殺人未遂の罪に問われていて、さらに事件の2カ月前にも、当時の勤務先の病院から塩化カリウム10本を無断で持ち出したとして殺人予備・窃盗の罪に問われている。 初公判で渡辺被告は殺人の罪について認めた一方で、殺人未遂と殺人予備の罪については否認した。検察は、動機について「被告人は職場の同僚女性との不倫関係を継続するため、障害となる自己の妻子を排除するため各犯行に及んだ」と指摘している。 第3回・4回公判──────────────── ◆◆事故の翌日に妻・春香さん「記憶がない」◆◆ ─────────────────────── 第3回・4回公判では、事件の7カ月前(2021年3月29日)、妻・春香さんに睡眠薬を飲ませ、交通事故を起こさせた殺人未遂についての審理が行われた。 殺人未遂について、弁護側は「渡辺被告は借金返済のため、妻の口座を流用したことがバレないようにするため、春香さんに睡眠薬を飲ませた。」と殺意がなかったことを主張している。 一方、検察は「睡眠薬を飲んだ春香さんは、運転すると危険な事故を起こす可能性があり、渡辺被告にはそれを止める義務があった。」と主張。以前から殺害を企てていて殺意があったと指摘している。 法廷では、春香さんの母親が証言台に立ち、春香さんが事故の翌日に事故の記憶を一部覚えていなかったと話した。薬学を専門とする大学教授は、睡眠薬を飲んでから事故が起きるまでの時間と薬の作用時間、事故のあと実家に帰った後も春香さんが強い眠気に襲われていたこと、翌日に記憶がないことなどから「春香さんは事故当時、睡眠薬を服用していたと考えて整合性がある。」と証言。睡眠薬の効果から、大きなケガをする事故の危険性が高まるため、本来運転してはいけないなどと話した。 第5回公判 ──────────────── ◆◆妻殺害後:自殺に見せかける偽装工作、LINEで遺書も自作自演◆◆ ───────────────────── 11月5日の第5回公判では、殺人と殺人予備についての冒頭陳述が行われた。 検察は、渡辺被告が勤務先の病院から塩化カリウム10本を盗んだ殺人予備について、「事件(殺人予備)の約1カ月前に不倫相手から離婚について、『年内に動きがなければ諦める』と期限を宣告されていたことから、妻排除の動機が強い時期だった。」と指摘。 【塩化カリウム 致死量】【塩化カリウム製剤 死ぬ】【妻がいなくなった 行方不明】などの検索履歴が残っていたことなどからも「殺意があった」と主張した。 一方、弁護側は「本当に殺そうと思って検索したのか。看護師として業務上、気になったことや単純な興味・好奇心、ネットサーフィンをしていただけかもしれない。」などと主張した。 2人を殺害した殺人について、検察は「渡辺被告は2人を殺害した後、春香さんの遺体を階段まで運び、ロープを階段にかけ、自殺を装った。」と指摘した。渡辺被告は犯行の20~30分後、春香さんの携帯から自分に向けて、自殺したかのようなメッセージも送信していた。 ■春香さんのスマートフォンを使って渡辺被告が自らに送ったLINE 「健さん今までごめんよ。つらいなら溜め込む前に言ってほしかったけど、私も気づかなかったし悪いなって思った。~(中略)~思いやりとか最近全くと言っていいほどなかったよね。よく考えたら私が産休育休中、健さんは自分の時間全部くれたやん。~(中略)~家族になれてよかったよ。今までありがとう、元気でね、バイバイ。」 殺害後には不倫相手に「大好き大好き」とメッセージも送信していた。 弁護側は殺害の動機について「身勝手だとしても不満や怒りを募らせた理由は彼なりにもある。それが限界点に達して殺害に至った」と主張。理由として、被告が事故に遭った際、春香さんは被告の身体の心配よりもお金の心配をしていた、などの話を挙げた。 ◆◆不倫相手が出廷:逮捕後も被告から手紙「1分1秒でも早く○○の元へ帰る」◆◆ ──────────────────── 法廷には、渡辺被告の不倫相手の女性も出廷した。 女性は「渡辺被告とは2019年秋ごろから不倫関係になった」と明かした。その年の年末ごろには一度、春香さんに関係がバレ、その後50万円の慰謝料を払ったという。「やめないといけないと思ったが、『まだ会いたい』と言われたこともあり、関係は続いた」と証言した。 2020年10月、渡辺被告の長女・純ちゃんが生まれた。 「(不倫関係)やめないといけない」と思っていた女性は、その後「2021年2月いっぱいで関係を終わりにしよう」と伝えた。渡辺被告は「まだ終わりたくない」と言い、最後に会ってからも「会うのをやめてから元気が出ない、まだ会いたい」などとメッセージを送ってきたという。結局関係は再燃した。 自宅を新築するにあたり、2021年4月ごろから妻・春香さんは実家で生活していた。その約4カ月間、渡辺被告は不倫相手の家で寝泊まりしていた。女性によると、そこでは自分との将来や、離婚を考えている旨の話をしたという。 その後、渡辺被告が新居に移り、女性は「離婚について年内に動きがなければ諦めて関係は終わりにする」と期限を宣告した。 女性は、事件後に逮捕された渡辺被告と複数回面会したほか、5回以上手紙でやり取りしたことも明かした。 渡辺被告からの手紙には「ずっと想っている」「少しでも早く戻って一緒になりたい」「○○への想いは変わらない。今もこれから先もずっと」「生涯何があっても○○の味方であり続けます。」「1分1秒でも早く○○の元へ帰ります。」などとつづられていたという。 最後に、検察に今の思いを聞かれると、女性は- 「時間が経ち、冷静に考えられるようになってご遺族の方に申し訳ない。」 「今は恋愛感情は一切ないし『待っている』とも言ったが、健さんとの未来については一切考えてない。」と答えた。 第6回公判 ──────────────── ◆◆遺族「まさか旦那さんに…」「極刑にしてほしい」◆◆ ───────────────────── 11月6日の第6回公判には、妻・春香さんの母親と弟が出廷した。 犯人が渡辺被告だと聞きどう思ったかと聞かれた母親は「まさか旦那さんに、とは想像もできなかった。現実に起きるとは思ってもみなくて、わめき泣くしかなかった」と涙ながらに答えた。 検察に「どのような処罰を望むか」と聞かれると、「2回死んでほしいとは本当に思う。死ぬまで一生悔やみ続けるべき。罪に見合った罰を与えてほしい。」と話した。 弟は、検察に逮捕後に渡辺被告が不倫相手に送っていた手紙を見てどう思ったかと聞かれ、「全然反省してないな、自分どうにかなると思っているのでは」と話した。そのうえで「謝罪は必要ないので、極刑にしてほしい」と訴えた。 渡辺被告が2人を殺害した後、弟は被告から連絡を受け、自宅に駆け付けていた。 当時、弟が春香さんに人工呼吸を行っていた時、渡辺被告は純ちゃんを「どうして?」などと言いながら抱きかかえていたと証言した。 ◆◆「夫婦生活と不倫関係を両立したいと思っていた」◆◆ ──────────────────── 11月6日は弁護人による被告人質問も行われ、春香さんに1度不倫がバレた時について聞かれた渡辺被告は、「夫婦関係もできれば今まで通り続けていきたいと思っていた。交際期間が長く、彼女を大切に思う気持ちもあったから。」と答えた。 そして夫婦生活と不倫関係について… ■渡辺被告 「自分勝手だとは分かっていたが、何とか両立できればと思っていた。」 第7回公判 ──────────────── ◆◆被告が証言台に:検察が追及するも「よく分からない」◆◆ ───────────────────── 11月7日の第7回公判では検察・弁護側双方の被告人質問が行われた。 この日は、事件からちょうど3年となる日。 ■弁護人 「今日は何の日ですか?」 ■渡辺被告 「妻と娘の命日です。本当に申し訳ないことをしてしまったと思っています。」 その後は、それぞれ事件に至るまでの時系列に沿った質問が行われた。 事件の約9カ月前(2021年1月末)に【妻殺害 水死に偽装する方法】と携帯で検索したことについて弁護人に問われると、「正直全く覚えがありませんでした。」とし、その時点では殺そうとは考えていなかったと答えた。 弁護人は、子どもが生まれた後も不倫を続けたことについて聞いた。 渡辺被告は「別れた方がいいのは分かるが、相手に『まだ会いたい』と言われ、私もまだ会いたいと言った。」と話し、検察に同じことについて問われた際には、「当時はやめようとは思わなかった。自分のことしか考えてなかったからだと思う。」と話した。 不倫相手に長女・純ちゃんについて「もし子供を引き取ったら育ててくれるか」と聞いたこともあったという。渡辺被告は「娘がとてもかわいいと思っていたので、娘と一緒に不倫相手と生活できればと思っていた。」と説明した。 渡辺被告が、職場から塩化カリウム10本を持ち出した殺人予備事件が起きた2021年9月ごろについて弁護人に問われると、「新居での生活は妻と意見がぶつかったり、中々意見が通らなかったりした。家事や育児でストレスが溜まり、新生活を解消したいと思うようになった。薬を飲ませれば体調が悪くなって実家に戻ると思った。」と話した。 塩化カリウムを持ち出したことについては、「これを持っていれば自分も強い気持ちになれると思ったから。精神的に対等になれると思った。」と説明。検察の質問に対しては「使おうと考えたわけではなくて、安心を確保したかっただけ」などと殺意を否認した。 塩化カリウムを持ち出す以前に【塩化カリウム 致死量】【塩化カリウム製剤 死ぬ】などを検索していたことについては、いずれも「単純な興味だった」などと説明した。 検察は「警察の取り調べ当時、被告は自分で塩化カリウムの静脈注射も殺害方法として考えていた、と言っていた」と指摘したが、渡辺被告は「当時は事件から間もなかったので混乱していて、記憶があいまいだった。」とした。 また検察から、事件以前の春香さんへの殺意を伺わせる数々の検索履歴【溺水 低酸素脳症】【運転中に心肺停止】【妻が家出 行方不明】【取り調べ 録音】【看護師 実刑 免許】などについて問われると、渡辺被告はいずれも「なぜ調べたのかよく分からない」「たまたま目についたから」などと答え、事件以前の殺意についていずれも否認した。 検察は、渡辺被告が警察の取り調べ当時には、事件以前の殺意の有無や絞殺以外の殺害方法を考えていたことなどについて話していたが、法廷では「覚えていない」などと話し否認していることについて度々追及したが、渡辺被告はそのたびに「よく分かりません。その当時は既に2人を殺してしまっていたし、混乱していて自分でも何を考えていたのかわからない。」などと答えていた。 ◆◆事件当日の詳細語る「娘の顔が妻に見えて…」不倫相手には「大好き大好き」◆◆ ──────────────────── 事件当日の11月7日、殺害に至った経緯について、渡辺被告は、きっかけは離婚話を切り出したことだったと明かした。 「離婚してくれ」と提案した渡辺被告に対し、妻・春香さんは「不倫もして、借金もして、黙って私の口座の金を返済にあてて…。あなたにそれを言う権利はない。一緒にいてくれてありがたいと思いなさい。」と答えた。それを聞いた渡辺被告は… ■渡辺被告 「我慢できないと思い、クローゼットの中のロープを取りに行き、ロープを持って妻の背後に近づいた。」 春香さんを殺害。さらに… ■渡辺被告 「娘がこっちの様子を見ていた。妻の肩を叩いて起こそうとしていた。」 「殺すところを見ていたし、娘の顔が妻に見えてしまった。娘の存在がとても怖いと思った。」 渡辺被告は同じロープを使い、今度は純ちゃんの首を絞めた。 ■渡辺被告 「苦しかったのか泣き始めた。ごめんねと言ったが、手の力は緩めなかった。」 渡辺被告は声を震わせながら、一連の犯行の詳細を語った。 法廷では後ろ姿しか見えなかったが、声を詰まらせ時々鼻をすすりながら話すその様子は、泣いているように見えた。 2人を殺害した後、渡辺被告は春香さんの遺体を階段に移動させ、ロープを掛け、自殺に見せかけようとしたと説明した。 春香さんのスマートフォンを使い、自分に向けて遺書のように送ったメッセージについて弁護人に問われると、「私が思っていたことを妻から謝罪するような形で送った。思いやりや感謝など、私が妻に言ってほしかったことや思ってほしかったことをLINEで送った。」とした。8日の法廷では検察にこの時のことを問われ「打ち始めたら止まらなかった。」とも話した。 渡辺被告は、2人を殺害後に不倫相手に『大好き大好き』とメッセージを送っていたことが明らかになっていたが、それについて弁護人から当時の思いを聞かれると… ■渡辺被告 「相手からの連絡に気づき、自分が犯してしまった目の前のことから逃げ出したくて送った。」 弁護人から、妻に対しての今の思いを聞かれた渡辺被告は… ■渡辺被告 「妻のことをずっと苦しめてきて本当に申し訳なく思っている。妻は何も悪くなく、ただただ自分勝手で申し訳なく思っている。しっかりと向き合い、妻の気持ちを考え、借金ができてしまったと正直に話し、もっとちゃんと妻のことを見つめていればよかった。」 娘については… ■渡辺被告 「本当に娘はとてもかわいかった。とても大切な存在だった。この先、楽しいこと嬉しいこと辛いこともあったと思う。もっともっと色々なことを経験して大きくなってほしいと思っていたはずなのに。最後は本当に苦しかっただろうなと思う。本当に申し訳なかった。自分でも自分が許せない。」 弁護人に「最後に2人に言いたいことは?」と問われた渡辺被告。 声を震わせ、こう答えた。 ■渡辺被告 「苦しかったよね。本当にごめんなさい。いい夫でなくて、いい父親になれなくて。ごめんなさいと言いたい。」 第8回公判 ──────────────── ◆◆逮捕後「娘を殺したのは妻」不倫相手への手紙は「謝罪と両立できるのでは…」◆◆ ───────────────────── 11月8日第8回公判の法廷、検察からの質問は渡辺被告の逮捕後の取り調べについてまで及んだ。 ■検察 「逮捕後、純ちゃんを殺したのは誰だと言いましたか?」 ■渡辺被告 「妻だと言いました。罪を逃れられると思いました。」 ■検察 「あなたは、『妻が夢に出てきて、かばってくれてありがとう、もう正直に話していいよ。と言われた。』と言っていましたよね?」 ■渡辺被告 「覚えてないです。」 そのほか、遺族に謝罪文を送る一方で、不倫相手には「少しでも早く戻って一緒になりたい」などとつづった手紙を送っていたことについて、渡辺被告は「不倫相手への想いと、妻と娘、そして遺族に対する謝罪の気持ちは両立できるのではないかと思っていた。」と話した。 殺害の動機については、あくまで夫婦生活によるストレスなどが原因で、不倫相手については「好意はあったがそれが発端ではない」と不倫によるものではないと否定した。 ◆◆被告人の父親が出廷◆◆ ──────────────────── 11月8日の法廷では、渡辺被告の父親も証言台に立った。 遺族に対し「謝っても謝っても謝り切れないほど心苦しく思っている。」と謝罪の言葉を述べ、渡辺被告に対しては「ご遺族に対して一生償っていくもの。これから出る刑をしっかり受けていただきたい。」と話した。 全9回の審理は、残すところ12日の論告・弁論のみとなった。検察の"求刑"も注目される。 判決は、22日に言い渡される予定。