「あの日、どこでなにしてた?」東日本大震災から13年…津波で亡くなった外国人の足跡を追ったルポタージュ #知り続ける(レビュー)
東日本大震災から13年……日常のはかなさと、生きる人間の強さに触れるノンフィクション『涙にも国籍はあるのでしょうか―津波で亡くなった外国人をたどって―』(新潮社)が刊行されました。 あの日、津波で亡くなった外国人は、東北の地でどのように生きたのか? 現地を訪ね歩き、「あの人の面影が、今も自分を生かしてくれている」という実感を胸に凛と生きる人々と出会ったルポライターの三浦英之さんが上梓した一冊を紹介します。
東えりか・評「東北を取材し続ける新聞記者だからこそ書けたルポ」
新聞や放送局といった組織に属する記者と、フリーランスのジャーナリストの立場は全く違っている。 思いもかけない不幸に見舞われた人たちが、取材に来たと言われてはじめて会う人を信用する担保は、出された名刺の○〇新聞、××テレビという肩書しかない。どんなに著名で優秀な書き手でも、どこの誰だかわからない輩を信じて話をする人など、まず居ない。大事件や大災害について語りたいことがあればあるだけ、信用するに足る人を選びたい。それは当然のことだ。 それなのに、その有利な立場に甘えてろくに人の話を聞かず、いわゆる「飛ばし記事」が出ることも少なくないのはもったいない話だと残念に思っている。 だから、大手メディアに所属する記者でありながら、一人の優秀なルポライターとしての資質も兼ね備えている三浦英之のような書き手を読者は求めている。 2022年の夏、三浦は勤務先の盛岡市内でモンゴル人青年から「東日本大震災で亡くなった外国人犠牲者の数を日本政府は正確につかめていない」と聞く。調べてみると厚生労働省と警察庁が発表しているデータが違っていた。「津波で亡くなった外国人を取材できないか――」。長い年月地元に住み、人脈を築いて信用を得ていなければできない詳細な取材の成果が本書である。 三浦の作品を最初に読んだのは第13回開高健ノンフィクション賞を受賞したデビュー作『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』(集英社文庫)である。傀儡と言われた満州国だが、それでもこの国に世界平和の夢と希望を求めた各国の若者たちがいた。その人々の現在までの歴史を詳細に追ったこの本は、朝日新聞記者という立場が無ければここまでの完成度を見ることはなかっただろう。 だからこの時は少し反感もあった。放送局のディレクターなどでも、素晴らしい紀行文やノンフィクションを書き上げている人は多いが、「フリージャーナリストにはできないことだよなあ」と斜に構えて見ていた。 だがその後、フリージャーナリストの布施祐仁氏との共著である『日報隠蔽 自衛隊が最も「戦場」に近づいた日』(『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』を文庫化の際、改題。集英社文庫)を読んで、考え方を大きく変えた。 この作品は自衛隊が行った南スーダン国連平和維持活動日報の隠蔽と日本の政治家たちの暗闘を、日本とスーダンの現場の二拠点で、立場の違う二人がそれぞれの持ち場で真実を追った迫真の作品だ。稲田朋美防衛大臣を辞任に追い込んだ事件といえば思い出す人も多いだろう。 この本で三浦は新聞記者の立場を大いに生かして真相を明らかにしていく。痛快な本だった。「この人、やるじゃない!」とその後は、目についた本は必ず読むことにした。