3時間かけても「来たいから来る」子どもたち。自由に試遊錯誤できる、山中のフリースクール
新宿駅から電車・バスを乗り継ぎ2時間半かかる、決してアクセスが便利とは言えない檜原村。子どもたちに「遠くないの?」と聞くと「遠いよ!!」と笑いながら返事が返って来て、よくよく聞くと平均して片道1時間~3時間かけてこの檜原村まで毎週通っていることを知る。近くに暮らす子どももいるが、多くは23区内から通っているようだ。しかし彼らは「保護者に連れてこられたから」とは決して言わず、「来たいから来ている」のだという。
自分の感覚を信じて試行錯誤する時間
この日は寒さ対策として納屋で焚き火を行っていた。普段は河原で子どもたちが枝を拾い、火打ち石で火を起こしているという。火を怖がることなく近くまで寄り、川や雪で冷えた指先を温めている。 子どもたちに続いて暖をとりに火の回りへ行くと、井本さんが組んだ焚き火がうまく燃えないのを見かねて、一人が木を組み直していた。不完全燃焼で煙を出していた火がみるみるうちに安定し出す。井本さんが「すごいなあ」と褒める。
「僕はうまく燃えないとすぐ調べようとしちゃうし、全然できなかったりする。けれど彼は何度も自分の手で火を起こしてきたから、感覚でこれができるんです。組み上げ方も綺麗ですよね、燃えることが形でわかる。自分の感覚でやること、習ってないことって強みなんです」 「だって調べたら、楽しくないじゃん。まったく楽しくない!」と枝を膝で折りながら井本さんの言葉に男の子が続く。ここでは火起こしだけでなく、子どもたちは遊びの中で必要になったことを都度トライアンドエラーし、試しながら身につけ、「これができないとだめ」という外的な強制力を感じることはない。失敗したり手こずっていても、それに口出しする大人はいない。 「大人の側は『これをやろう』とか活動を促すことはせず、一緒に遊んでますね。危険がないかを見守りはしますが、山で遊んでる中でちょっと転んだり滑ったり......それくらいのことは普通です。山の中は危険もあるから、制限はたくさんあるじゃないですか。その制限があるから自由に遊べて、遊びのために工夫を発揮できるんです」