3時間かけても「来たいから来る」子どもたち。自由に試遊錯誤できる、山中のフリースクール
「この教室が開くのは午前十時から、午後三時前まで。ここには決まった時間割も、その日の活動内容もありません。子どもたちはお弁当を持ってきていますが、お昼の時間も各々が食べたいときに食べる。到着したらあとは子どもたちの自由。 活動中の保護者の付き添いや見学もご遠慮いただいています。子どもたちが全部決めてスタッフはそれを見守る。よっぽど危険なことがない限りは、彼らは屋外で何をしてもいいんです」 「こんなに雪が残ってるなら、子どもたちは外で思う存分遊んだほうがいいですよね。今の子たちは雪の中で遊ぶ暇もないことが多いけれど、学校の授業なんてやってる場合じゃないですよね」 そう話す井本さんは、東京大学への進学者を多数輩出する栄光学園の卒業生であり、その母校で数学教師として勤務していた。1990年代後半からアクティブラーニング型授業(※)の先駆者として全国から教育者が授業の見学に集まり、独自の教材・授業方法はテレビや雑誌にも取り上げられた人物だ。 2019年からは栄光学園の非常勤講師となり、現在の「いもいも」での活動に軸足を移行。森の教室を担当する土屋敦さんは井本さんの栄光学園の同級生で、元編集者で、書評家や料理家を経ていもいもに参画した不思議な経歴の持主だ。 ※教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、能動的な参加を取り入れた学習法の総称。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループワークもアクティブラーニングの方法。 いもいもが開設する教室のひとつ「森の教室」は、2016年に栄光学園以外の中学生を対象とした数理思考の学習会が発端となっており、現在は「いもいも教室」として運営されている。土屋さんは枝を集めながら「森の教室」の普段の様子を話してくれた。
「檜原村での教室は平日かつ山中での開講なので、学校へ行っていない子がほとんどです。とはいえここは不登校児童のために生まれた、というわけではありません。平日に開講していたら、自然と不登校の子どもたちが集まりました。 彼らに学年ごとに上下関係はなく、それぞれ通っている期間もバラバラです。お互いの年齢や名前を知るよりも先に一緒に遊び始めますね。そのうちに『そういえば初めてだっけ?』とか『名前なんていうの?』という会話が生まれて。ちょっと喧嘩になってもスタッフが間に入ることはありません。 今日も見学で初めてくる子がいるんですけど、ほらあの子。川で遊び始めて、さっき魚を捕まえてみんなに見せてました。素手で捕まえたんですって。すごいですよね」