【相撲編集部が選ぶ夏場所初日の一番】上位陣が全滅! 大の里は2度目の挑戦で横綱照ノ富士を撃破
三役戦はすべて番付下位の力士が勝つ、異例の展開となった
大の里(掬い投げ)照ノ富士 初日から荒れに荒れた5月場所の土俵。最後の仕上げはもちろんこの男だ。 大の里が2度目の挑戦で横綱照ノ富士を撃破。新小結の初日を、これ以上ない形で飾った。1月場所の初挑戦では上手投げで投げ捨てられたが、今度はそれを許さず。一方的に攻めて、最後は掬い投げで倒した。 立ち合いは初対戦の1月場所と同様、思い切り踏み込んでいったが左上手を引かれた。前回はそのまま一気に前に出ようとして、横綱に余裕をもって投げ捨てられた。だが今場所の大の里は違った。 【相撲編集部が選ぶ夏場所初日の一番】照ノ富士、またしても大栄翔に敗れる 「1月場所は、むちゃくちゃに当たって、走ることだけを考えていたが、先場所、そのままじゃダメだと自分なりに考えた」という大の里は、冷静にここでひと腰落としてから、左からの攻めも交えつつ前に出た。 照ノ富士は前回同様、左からの投げで料理しようとしたが、大の里の圧力の前に上手が切れて小手投げに。大の里は崩れることなく前に出て、土俵際、そのまま右差し手を突きつけて横綱を倒した。 「イメージどおり?」の問いに、「そうですね、止まることなく、自分有利な形で、腰もぶつけられましたし、土俵際も反応できた」と大の里。「1月場所で、目の前で横綱を見ているので。あの時の緊張を反省して相撲が取れてよかった」とも語り、精神面でも相撲内容でも、初対戦の反省を見事に生かした勝利だったことが分かる。 照ノ富士は場所前、左脇腹を痛めて相撲を取る稽古ができておらず、まさに「ぶっつけ本番」で場所に臨んだ、というところはあるが、それを差し引いても、この日の大の里の相撲は、その成長の早さを満天下に見せつけるに十分なものだったと言えよう。 母の日でもあったこの日は、会場に母の朋子さんも姿を見せており、何よりのプレゼントとなった。 思い起こせば、大の里にとって1年前の「母の日」は、幕下10枚目格付け出しでデビューし、黒星を喫した日。「あの時は幕下で初日に負けて、どうなるかと思った。一年後に結びで横綱に勝つとは。想像していなかった」。デビューから2年目に入ったところ、通算7場所目での横綱撃破にも、その成長速度が現れている。 この日は、照ノ富士ばかりでなく、霧島は26歳の豪ノ山に、貴景勝は24歳の平戸海に、豊昇龍は21歳の熱海富士に敗れ、上位陣が世代交代の波に次々とのみ込まれていった。 さらに、ここだけは挑戦者が年上だったが、琴櫻も大栄翔に敗れて改名初日を飾れず、横綱・大関陣は全敗。さらには若元春、阿炎の両関脇も敗れて、三役戦はすべて番付下位の力士が勝つ、異例の展開となった。 先場所、110年ぶりの新入幕優勝という快挙を成し遂げた尊富士は休場となった今場所だが、世代交代の大波の勢いは全くとどまらず、むしろ勢いを増しているようにも見える。 まだ初日が終わっただけなので気が早すぎるのは承知だが、初日の白星を生かして序盤の上位戦を好成績で終わるようなら(今場所は出場している小結が1人なので、序盤戦でどこまで横綱・大関戦が組まれるかは分からないが……)、今場所も大の里の優勝争い参戦は濃厚だ。先場所の尊富士に続く、ちょん髷力士の優勝が実現した時には、(幕下付け出しからなので条件は違うが)、先場所尊富士が作った、初土俵から10場所目の幕内優勝の記録も、所要7場所に更新されることになる。 文=藤本泰祐
相撲編集部