東海大相模の“超大型左腕”藤田琉生、ドラフト上位候補に浮上も…プロが「育成は難しい」と話す“不安”とは
フィジカル強化とフォームの改良
富山商戦で奪った13個の三振のうち、ストレートが決め球だったのは1個だけだった。これだけ器用に変化球で勝負できる、長身左腕はめったに見かけない。 変化球が生きるようになったのは、ストレートのスピードが大きく向上したからだ。筆者が、昨秋の神奈川大会で視察した際には、リリーフで短いイニングを投げたにもかかわらず、ストレートの最速は138キロにとどまっていた。正直にいえば、この時点では、藤田がドラフト候補に浮上してくるとは思わなかった。 甲子園での飛躍につながった理由は、トレーニングによるフィジカル強化に加えて、フォームが大きく変化したことだ。高校野球は、昨年まで、投球時に足を二度上げる“二段モーション”が禁止していたが、今年春から国際ルールなどに合わせて解禁した。 藤田は早速、それを取り入れた。 「ルールが変わることを聞いて、すぐに“二段モーション”で練習するようになりました。中学時代に、一度投げたことがあります。その時の感覚が良かった。右足を二回上げることで、その後の並進運動(平行移動するような運動)がしやすくなる。(上半身は)軽い力で投げても、球威が上がるような感覚があります」(試合後のインタビュー) 実際にバックネット裏から見ていても、上半身の力みはほとんど感じられず、下半身を使ってしっかり投げることができていた。 担当スカウトからは、夏前に急成長しているとの話を聞いていたが、神奈川大会と夏の甲子園で見せたピッチングは、「ドラフト上位候補」と呼ぶのにふさわしい。 「あれだけの体があって、器用にストレートと変化球が投げられる高校生投手はなかなかいませんね……。大型の左投手は、コントロールやフィールディングが悪いことが多いんですが、そういうところが全くない。(今年の)高校生左腕では一番でしょう」(パ・リーグ球団スカウト)
“大器”ゆえの不安要素
しかし、その一方で、“気になる点”を口にするスカウトもいた。セリーグ球団のスカウトの話。 「もちろん、変化球を器用に投げられるところは素晴らしい。ですが、ストレートを磨くことを疎かにしてほしくない。今日(富山商戦)も、相手打者にストレートは当てられていました。ストレートがあっての変化球ですから、もっと(まっすぐの)レベルを上げていってほしいですね」 さらに、こう続ける。 「藤田ほどの長身の左投手は、なかなかいませんので、プロ入りしても教える側も難しい。藤田は器用なので大丈夫かなと思いますが、自分の感覚を大事にしてもらいたいですね」 確かに、今のプロ野球界を見渡しても、「195cm以上の日本人左腕」は、巨人の育成選手、鴨打瑛二(創成館、2021年育成ドラフト5位)のみだ。巨人にはもう一人、身長200cmの阿部剣友(札幌大谷、2020年育成ドラフト8位)が在籍していたが、支配下登録されることなく、昨年限りで球界を去っている。彼らの高校時代と比べて、すべての面で藤田が大きく上回るが、プロ側がうまく育成ができないのではないか、との不安がある。 日刊スポーツの報道によると、関東第一戦の試合後、藤田は「進路はまだ決めていないです。大学へ行くのか、プロ志望を出させていただくのか、先生方とも話していきたいと思います」と語ったそうだが、筆者がスカウト陣から得た情報では、プロ志望届を提出する可能性が高いという。 果たして、“大器”をどの球団が指名するのか―。今秋のドラフト会議で、大きな注目ポイントとなりそうだ。 西尾典文(にしお・のりふみ) 野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。 デイリー新潮編集部
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