躍進する京大野球部を率いる元甲子園のヒーローが行った大胆な意識改革「京大の中で一番はカッコ悪いよ」
この春、関西学生リーグで4位となった日本トップクラスの難関大学・京都大。関西大、立命館大と強豪2チーム相手に勝ち点を挙げ、躍進を果たした。強くなった京大野球部を率いるのは、近田 伶王監督(34)である。 報徳学園のエースとして3度甲子園に出場した近田監督はソフトバンクで4年間、JR西日本で3年間プレーしたあと、現役引退。車掌として働きながら、2021年11月に監督に就任した。 監督となった元甲子園のヒーローが語る、京大野球部改革とは――? 【動画】杉内俊哉さんの自主トレはレベルが違った。甲子園のスターが明かすホークスでの4年間
学生たちに求めたのは「フィジカルと戦術の両立」
――京都大OBの誘いにより、指導者生活がスタートしましたが、最初は土日にやられていた形でしょうか。 近田 車掌の勤務は土日休みとかではないんです。例えば月曜日朝から勤務したら火曜日の朝まで勤務します。そして火曜日は1日休みという形。その場合は昼に京都に移動して指導をしていました。 ――当時の学生さんの印象は? 近田 楽しそうにやっていたのはもちろんですが、当時の選手たちは僕の現役を知っていて、「近田さんが来てるよ!ぜひ教わりたい」という気持ちを持ってくれている選手が多かったんです。嬉しかったですし、ぜひ僕で良ければという形で教えました。最初は臨時コーチでスタートして、2年目からコーチに代わりました。 ――実際にこれまでの野球人生で学生を教えることはなかったと思います。実際に接してみていかがでしたか。 近田 京大生は本当に賢いなと。質問の仕方、答え方を聞いても、しっかりと文章になっているんですよね。その中でも難しさはありましたね。実際に僕が伝えたいことが伝わっていないということはありました。うまく伝えられていない自分が悪いのかなと……。 ――会社に勤務しながらの監督業は時間的に厳しいように感じますがこれはどういうきっかけでしょうか。 近田 監督は無理だろうと思っていました。当時の監督は「死ぬときはグラウンドで」というぐらい監督業にこだわっていました。ただ2021年秋のリーグ戦終了のタイミングで、監督就任の話になり、会社側も理解を示してくれて、出向のタイミングと監督就任が重なりました。監督になってからは駅員の業務は外れました。 ――関西学生の他の5大学は、甲子園出場した強豪校、西日本の強豪校でプレーしてきた選手たちも多く、京大との差は大きいと思います。そういった大学に対抗するためにどんなことを伝えましたか。 近田 基本的には、京大と他の5校では10戦やれば、8~9試合は勝てないほどの戦力差があると思います。もちろん全勝は狙いますけど、1勝よりも2勝。2勝よりも3勝をとるために、何をするのか。フィジカルは高めながらも、奇策が必要になります。「ただ打って、投げて、守って、ホームランを打つ野球だけでは勝てないよ」という考え方を伝えて、納得してもらうまでに時間はかかりました。 ――単純に投げるスピード、打者のパワーは敵わないところはありますよね。 近田 パワーをつけるためのトレーニングはやっていますし、野球選手にとって大事なことです。ただ、やったからといって勝てるわけでもない。最低限のトレーニングをやった上で、戦略を立てて、奇策を実行できるからこそ勝てる確率が高まります。だけれど、どちらかに偏ってしまうんですよね。「フィジカルと戦略を同時に高めないと勝てない」ということを繰り返し伝えてきました。 ―― 今春のリーグ戦ではドラフト1位候補の金丸夢斗投手(関西大)から勝利したり、立命館大から勝ち点を奪ったりと成果が大きい春だったとおもいます。 近田 強くはなってきていますけど、誰からも「強い」と納得してもらえるほどの強さはない。この秋は学生たちはここをどう捉えて、戦っていくかが大事かなと思っています。 ―― それでも選手たちは入学の伸び率はかなり高いのでは? 近田 伸び率は例年と比べると、かなり高い世代です。フィジカルが足りないのを諦めて、小手先の戦術に走ってはいけない。選手たちに伝えたのは、戦術はこちらが考えるから、君たちはフィジカルをあげなさい、自分のことをちゃんとやりなさいということです。 また「戦術に合う選手を使う」という話もしています。選手たちと「フィジカルを高めるので、どうしたら戦術に組み込めますか?」という会話ができるのが今年の3、4年生になります。