【毎日書評】「きょうが人生最後の日だったら」と自問してみると、本当に大切なものに気づける
『新版 今日が人生最後の日だと思って生きなさい』(小澤竹俊 著、アスコム)の著者は30年ほど前、当時は全国に10か所程度しかなかったホスピス病棟のひとつである横浜甦生病院で、ホスピス医として働き始めたという人物。以来、4000人ほどの患者さんの「看取り」に関わってきたそうです。 そこで目にして人たちの“最後の日”のあり方はさまざま。若いときからまじめに働いてきたのに、「なぜ自分が、いまこんな目に遭わなければならないのか」と悲嘆に暮れる男性がいるかと思えば、酸素吸入器をつけながら最後まで仕事をしていた70代女性もいたと振り返っています。 そればかりか、ひとりでトイレに行けなくなった患者さんから「これ以上生きていても仕方がないから、早く死なせてほしい」とお願いされたこともあるのだとか。 しかし、そんな姿を見てきたからこそ、感じることがあるようです。 残念ながら、すべての人がまったく後悔なく、満足してこの世を去るわけではありません。 しかし、それまでどんな人生を過ごしてきたとしても、残された時間がわずかだったとしても、「心から大切だと思えるもののために生きている」と実感できれば、人はそれを「本当に自分らしい人生」だと感じ、自然と前向きになり、心穏やかに幸せを感じることができるのです。(「はじめに」より) そして、日々忙しく、大変な思いをしながら生きる私たちだからこそ、ときには立ち止まり、「もし、きょうが人生最後の日だったとしたら」と問いかけてみることが大事なのではないかと考えているそう。 日常のさまざまなことから少し距離を置いて立ち止まり、ゆっくり考えてみれば、本来の自分を再確認し、後悔のない人生を歩めるはずだということです。 そうした思いを前提として書かれた本書の第1章「明日の自分に宿題を残さず、今日を生きる」に目を向けてみましょう。
「最後の日」を正しく迎えるために、一日一日をきちんと終えていく
もし、きょうが人生最後の日だったとしたら、果たしてどう生きたいと思うでしょうか? 最後の瞬間まで仕事に全力を注ぐとか、あるいは家族と過ごすとか、答えは人によってさまざまでしょう。いずれにしても、著者はこういうのです。 どのような答えであろうと、あなたが選んだものが、あなたにとっての正解であり、あなたにとって「本当に大切なこと」です。(15ページより) 著者は大学卒業後、救急救命センターや農村の町立病院、ホスピス病棟での勤務などを経て、2006年に在宅医療を専門とした「めぐみ在宅クリニック」を開院したのだそうです。 「どんな病気であったとしても、どこに住んでいても、安心して最期を迎える社会を目指します」を理念とし、病気や老衰などによって通院が難しくなった方のために、積極的に訪問介護を行なっているようです。 人生の最終段階を迎えた人には、身体の痛みが少ないこと、心の苦しみが和らぐことが必要不可欠。そのため、診察や検査、処方や生活指導のみならず、少しでも穏やかに日々を過ごせるように力を尽くしているのだといいます。 死が目前に迫ったとき、多くの患者さんは「自分には時間がない」「明日はこないかもしれない」という思いに苦しむのだそう。人はふだん、「明日がある」と思っているからこそ前向きに生きていけるもの。つまり「明日がない」というのは、究極の絶望だということです。 しかし、そのような中で、人はただ苦しむのではなく、大切なことを学びます。 日々の忙しさやさまざまなしがらみ、思い込みなどから解き放たれ、「人生の最後を穏やかな気持ちで過ごすには、何が必要か」を真剣に考えるようになり、自分にとって「本当に大切なこと」に気づくのです。(17ページより) また、多くの患者さんは、死が近づくにつれ、自分の人生を肯定するようになるようです。それまで「自分の人生には華々しいことはなにもなかった」「つまらない人生だった」と思っていた人でも、「自分なりに地道に働き、会社の役に立った」「家族の幸せのために、一生懸命にがんばった」などと考えるようになるというのです。 家族や友人、友だち、仕事、趣味など、その人にとって本当に大切なものは、たいてい身近なところにあるもの。そして人は、死が目前に迫って初めて、「大切なものたちと過ごしてきた日々」の価値に気づくということです。(14ページより)