「白人至上主義」はなぜアメリカで容認されないのか?
アメリカ東部バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者とそれに抗議するグループが衝突した事件をめぐり、トランプ大統領の発言が批判を浴びています。またこの衝突の後、各地で南北戦争の南軍司令官らの銅像を撤去する動きも相次いでいます。白人至上主義はなぜアメリカで容認されないのか。アメリカ政治に詳しい上智大学の前嶋和弘教授に寄稿してもらいました。 【写真】米警官による黒人暴行事件 「息ができない」アメリカの人種と犯罪の現在
白人至上主義と「オルトライト」
バージニア州の事件以降、「白人至上主義」という言葉が全米だけでなく世界中の注目を集めている。白人至上主義とは何を意味し、なぜアメリカ社会はここまで忌み嫌うのか。これについて考えてみたい。 白人至上主義(ホワイト・スープレマシズム、ホワイト・ナショナリズム)とは、白色人種こそ最も優れた人種であるという白人優越思想の考え方である。「白人は神に選ばれた人種であり、それ以外は劣等な悪魔の子」であるという人種差別の立場をとる。
白人至上主義者のグループとして挙げられるのが、KKK(クー・クラックス・クラン)やネオナチである。KKKはアフリカ系へのリンチを続けてきたアメリカ社会の暗黒部を象徴するようなグループである。そのリンチには、家への放火や外を歩いている黒人を集団で撲殺したり、列車にひかせるような実に凄惨な手口も含まれている。ネオナチはナチズムを復興しようとする運動の総称であり、外国人排斥・同性愛嫌悪などを掲げている。反ユダヤ主義的な思想や有色人種への強烈な偏見が行動原理となっている。 もちろんそうした人たちの数は全米的には少ない。KKKの場合、トレードマークともいえる頭部全体を覆う三角白頭巾を被り、全身白装束に身を包むのは、反社会的な行動のため、自分たちの顔をさらしてはいけない秘密結社の証であった。 ビリー・ホリデイの有名な「奇妙な果実」という歌のタイトルの「果実」とは、木にぶら下がる黒人の死体のことである。この歌のモチーフになったのは、強盗容疑の二人の黒人が白人群衆にリンチされ殺された1930年のインディアナ州での事件だが、白人至上主義への警鐘として広く世界的に知られている。白人至上主義者というレッテルはアメリカ社会では忌み嫌われる存在あり続けた。 この2つのグループとともに、今回の白人至上主義のデモの立役者となったのが「オルトライト」運動である。「オルトライト」という言葉はかなり包括的で、ネット上のサブカルチャー的な扱いであったこともあったが、昨年の大統領選挙でトランプ氏を支持することで広く知られるようになった。今回のデモには「オルトライト」運動の主導者であるリチャード・スペンサー氏も参加していたほか、デモに反対していた女性を車でひき殺した若者は「オルトライト」と自称している。「オルトライト」系といわれる保守系ネットメディア「ブライトバート」もKKKなどに比べるとマイルドにみえるが、反ユダヤ主義的な傾向は明らかに見える。その分、運動そのものが大きくなっている。 今回のデモは、南北戦争(1861~65年)の南軍司令官ロバート・リー将軍の銅像の撤去計画に反対することを名目で集まった。しかし、実際は全米から銃や盾を持った白人至上主義者が集結。最初から大きな騒ぎにさせることを狙い、人種問題を歴史問題にすり替えた武装集団運動であった側面が強い。その狙い通り、運動は大きくなっていった。