勤務中のタバコ、私用LINEはどこまで許されるか…「1日2通ならセーフ、5年で1000通超で解雇」のワケ
■ポイントは時間と場所。喫煙所が離れた場所なら要注意 仕事中の昼寝やタバコ、私用のLINEはどこまで許されるのでしょうか。まず知っておきたいのが「職務専念義務」。これは、勤務時間中は会社の職務に専念し、職務以外の私的な活動は控えなければいけない義務のことです。通常、職務専念義務は就業規則に盛り込まれています。就業規則になくても労働契約を結んでいれば、契約内容に誠実義務があるはずで、その一つとして職務専念義務を従業員は負うことになります。 この職務専念義務が課されている中での昼寝やタバコ、私用LINEはどうでしょうか。うたた寝ならまだしも、20~30分も寝込んでしまうようなことが度重なると、当然、職務専念義務を果たしていないと見なされるでしょう。居眠りの時間が労働時間に含まれず、その分だけ給与が減額になる恐れも出てくる可能性が高いのです。 ただし、休憩時間中の昼寝であれば問題ありません。従業員は、休憩時間を自由に利用できます。たとえば工場の現場では休憩時間が厳密に決まっており、勤務時間中はラインから外れることができません。昼寝やタバコ、スマホの使用は「決められた休憩時間中に」としていることが多いようです。 一方で、オフィスワークのように休憩時間が厳密に決まっていない場合はどうでしょうか。愛煙家の従業員が喫煙室へ一服しに行く光景もよく見られます。勤務時間中のタバコタイムは、従前から続く社会の慣習として容認している会社が多いようなのですが、果たして休憩時間に当たるのか。それとも労働時間の範囲内なのか。いくつか判例を見ていきましょう。
■5年で千通超は解雇 1日2通程度ならセーフ まずは、タバコ休憩が「労働時間」に含まれると認められたケース。勤務時間中に1日20~40本のタバコを吸っていた居酒屋チェーンの店長が、長時間労働で心筋梗塞を患い、労災認定を申請。すると、喫煙による休憩時間が1日当たり1時間程度あったとされ棄却、不服に思った店長は裁判を起こします。結果、何かあればすぐに対応しなければならない状況で、完全に職務から離れてはいなかったこと、タバコタイムは1回5分程度と、長時間まとめて取っていたわけでもないことを理由に、労働時間に含まれる判決が下りました(大阪高裁、平成21年8月25日)。 一方で、「労働時間」に含まれないとした判決もあります。このケースの従業員は勤務時間中に1日4~5回以上、職場を離れて少し遠い場所にある喫煙所に行ってタバコを楽しんでいました。戻ってくるまで10分前後の時間がかかり、何かあってもすぐに職務に戻れません。そのため休憩時間と判断されたのです(東京地裁、平成26年8月26日)。要するに、ポイントは時間と場所。喫煙所が離れた場所にある場合は、要注意ですね。 私用LINEも同様に、すぐに仕事に戻れるような程度ならすぐ問題視されることはないでしょう。私用LINEをしたとの理由で懲戒処分を科すのには、その処分に相当する程度の頻度である必要があります。ただし、勤務時間中に私用でスマホをいじることは「権利」ではありません。上司から「容認されている」にすぎないのです。これを忘れないようにしましょう。 「K工業技術専門学校事件」では、いわゆる“出会い系サイト”に登録した従業員が、会社のパソコンを使って約5年の間に1650通ほどのメールの受信と、1330通余りのメールの送信を勤務時間中にしていました。そして、その行為が著しく軽率かつ不謹慎であり、会社が懲戒解雇したのは相当であるとの判決が下っています(福岡高裁、平成17年9月14日)。 そうかと思えば、会社のパソコンを使って私用メールを送受信することが職務専念義務に違反するか否か、裁判で争われた「グレイワールドワイド事件」。こちらでは勤務時間中に外部との連絡を取ることが一切許されないわけではないとしたうえで、送受信したメールは1日当たり2通程度であり、職務遂行に支障をきたしたとか、会社側に経済的な負担をかけたとは認められず、職務専念義務には違反していないとされました(東京地裁、平成15年9月22日)。 いずれにせよ、やむをえず私用LINEする場合はすぐに仕事に戻れる範囲にとどめ、業務に支障のない範囲で済ませましょう。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年11月29日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 安中 繁(あんなか・しげる) ドリームサポート社会保険労務士法人代表取締役 社労士。労使紛争の未然防止、「週4正社員Ⓡ」の導入支援などを専門とする。著書に『すべての管理職必読! 困った社員対策マニュアル』がある。 ----------
ドリームサポート社会保険労務士法人代表取締役 安中 繁 構成=伊藤博之